【「凍った煙」の改良・普及に挑む】ティエムファクトリ | 建設通信新聞Digital

5月1日 木曜日

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【「凍った煙」の改良・普及に挑む】ティエムファクトリ

◆透明・高断熱のエアロゲル、建築分野での社会実装に挑む

スーファの透明度91%のモノリス体


 ティエムファクトリ(茨城県茨城町、倉田真弥社長)は、「凍った煙」とも称される軽量・低密度の素材エアロゲルの改良・普及に向けた研究を手がける。建設関連では、断熱性や透明性を生かした建材用途を皮切りに用途拡大を目指す。同社独自のエアロゲル「SUFA」(スーファ)で、建設分野での社会実装に向けた挑戦を加速させる。

◆製造コストやサイズに壁

 同社は2012年に設立した。「ティエム」の由来はitemの並べ替えで、素材に一ひねりを加えて世に出す、との意味を込めた。当初は新たな蓄光素材に取り組んでいたが、14年にエアロゲル事業を開始した。現在はエアロゲルの研究開発や製造販売を主としている。

 エアロゲルは、シリカなどを原料とする多孔質の素材で、体積の90%以上が空気であることから、軽量で断熱性に優れる。板状エアロゲルは、製造に超臨界乾燥装置を使用するため、量産に向けては製造コストやサイズなどに課題があり、宇宙開発など限られた分野での活用にとどまっていた。

スーファの大判モノリス体

 ティエムファクトリは中西和樹名大教授・京大特定教授らとの共同研究をベースに、超臨界乾燥装置を使わず常圧で板状エアロゲルを製作できる技術を独自に開発した。スーファは組成とプロセスの改良により骨格の柔軟性を向上させ、他社では実現が困難だった常圧での板状エアロゲルの大判化に成功している。

 現在までに、大判化や高い透明度を実現するための改良に取り組んできた。「大きさは、22年12月に厚さ1・5センチ直径1・3メートル超の円盤形のモノリス(プレート状形態)作製成功を、透明度はことし1月に(可視光線)透過率91%のモノリス作製成功をそれぞれ発表した。いずれも非常に技術的なハードルが高い。これらの研究成果をベースに、社会への実装を早期に実現していきたい」(倉田社長)。

◆塗料に混ぜて断熱性向上も

 モノリス以外の形態の開発にも注力する。「スーファは粉状にして塗料に混ぜると、配合割合に応じて断熱性能を発揮する。さまざまな断熱のニーズがある中で、社会実装に向けてどのようなものが適切か、絞り込んでいるのが現状だ」(堀内史郎代表取締役副社長)と構想を練る。

倉田社長

堀内副社長

 製品としても、粉状のスーファを搭載した多機能フィルム「HERA BARRIER(ヘラバリア)」を22年10月に発売した。透明粘着層に粉状スーファを分散させたことにより、光がフィルムを通過する際に、ブラインドのように入射角によって光を一部遮り、日射を抑制する。窓に貼付することで室内環境の省エネを期待する。透明性が高いため眺望に影響を与えない。「これまで建築物にエアロゲルを活用することは難しそうだ、という雰囲気があった。ヘラバリアでこの雰囲気を変えていきたい」(堀内副社長)と力を込める。

スーファを薄膜ガラス接着で挟んだタイル型(縦50ミリ横100ミリ厚さ10ミリ)としブロックのように組んで窓とした例。断熱性能は熱貫流率(U値)1・3程度。

パウダー、グラニュール(顆粒)状のスーファ

◆「スーファでなければならない」

 今後は「『スーファでなければならない』という用途を狙って普及させたい。ニーズに合わせてチューニングできるのもスーファの強みだ。メーカーなどと協力・開発する機会を増やしたい」(倉田社長)との方針を示す。建材以外では、自動車などへの活用に向け研究を進めている。目標は「1カ月当たりの生産量が数十トンになる規模での普及拡大を目指す。30年には国内だけでなく世界にも展開したい」と意気込む。

 

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