【レジリエンス社会へ】東北大学災害科学国際研究所 教授 今村 文彦氏 | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

レジリエンス社会へ

【レジリエンス社会へ】東北大学災害科学国際研究所 教授 今村 文彦氏

震災教訓生かし回復力向上/命救うインフラに事前投資
 東日本大震災を受けて東北大学が立ち上げた文理融合の学際的研究組織・災害科学国際研究所(IRIDeS)の今村文彦教授は、過去100年に発生した関東、阪神・淡路、東日本の三大震災について「それぞれ特徴は異なるが、われわれの生活様式の変化とともに地震をきっかけとする2次被害の実態も大きく様変わりしている」と指摘する。「災害が連鎖すれば確実に国難になる」という次の大震災に備え、「社会のレジリエンス(回復力)を高めることが必要」と過去の震災の教訓を生かした“事前復興”の重要性を説く。

今村 文彦氏

 地震と津波に加え、原発事故という3段階の複合災害となった東日本大震災については「備え以上のことはできなかった」と振り返る。45年前の1978年6月12日に発生した宮城県沖地震を端緒とする耐震化や協定に基づく啓開などの取り組みは奏功したが、「津波警報の第1報は過小に評価にされた」と省みる。その教訓を踏まえ、「命を救うためには知識を習得し、正確な情報発信とその確実な伝達、柔軟な判断力の醸成がなによりも大切だ」と訴える。

 マグニチュード9クラスの日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震で最大約20万人が亡くなると推計される中、「われわれの想定や想像を超える事態を整理し、次に備えるため、事前投資は欠かせない」という。災害に強いまちづくりを基盤に「軽さと強さを併せ持つ竹のようにしなやかな復元力を備えた“レジリエントな社会”の実現」を希求する。

 津波対策では東日本大震災を教訓に「まずは命を救う対策が必要だ」と強調する。避難時間を稼ぐための防潮堤や津波避難タワーなどのインフラ整備とともに「長期的には介護老人保健施設などを安全な場所に移設する必要がある」と指摘する。

 さらに「受援の拠点になる」という道の駅などの利活用などを含め、防災だけでなく介護や環境、観光などの施策と組み合わせた防災拠点の複合化を呼び掛ける。また、ハザードリスクを踏まえ、安全な場所にレジリエントでコンパクトなスマートシティを構築することで、「長期的なインフラの維持管理や、さまざまな施設が集積するため地域の利便性も高まる」と地方が抱える社会的課題の解決にも言及する。

 避難対策についても「高齢者・要支援者のための自動車や小型モビリティーなどを含めた多様な避難手段を用意しておく必要がある。全員が逃げ切るための“備え”のレベルを段階的に高めなければならない」と主張する。

 震災の記憶の伝承では「専門家は言葉や数字を重視しがちだが、脳科学の分野では絵や映像などの分かりやすい視覚的表現は大きな効果がある」と話す。「関東大震災は火事の“赤”、東日本大震災はがれきの“灰色”、原発事故の放射能は“無色”とそれぞれの災害の特徴を端的な“色”で記憶にとどめておくことで、潜在的な意識に残りやすくなる」とし、視覚的表現を風化の防止に活用していく考えだ。

 3月末に9年間務めたIRIDeSの2代目所長を退任した。「芭蕉の花をイメージしたIRIDeSのロゴマークは上下を逆転させると“災”という字になる。震災を克服し、災いを転じさせていきたい」と引き続き“BOSAI”の世界標準化に力を注ぐ構えだ。



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