【レジリエンス社会へ】国土技術研究センター理事長 徳山 日出男氏 | 建設通信新聞Digital

5月1日 水曜日

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【レジリエンス社会へ】国土技術研究センター理事長 徳山 日出男氏

将来政策の『次期コア』創造 インフラ評価に新機軸を

徳山 日出男氏

 国土技術研究センター(JICE)の徳山日出男理事長は、インフラメンテナンスや防災・減災、国土強靱化といった現在進行形のマストな政策を「現コア」と表現した上で、それに依存して将来政策の創造が思考停止に陥ることに警鐘を鳴らす。

 白黒、カラー、薄型、インターネット接続型などと進化してきたテレビを例に、「時代のニーズや技術革新を背景に“主力商品”は変遷する。現コアを進めながらも、将来政策の『次期コア』を考え、次の商品を見つけ続けなければ生き残れない。審議会未満の政策の仕込みが大切だ。“わくわく系”の仕事がなければ、官学民ともども地盤沈下してしまう」と指摘する。

 JICEは6月30日、設立50周年の節目を迎える。組織の存在意義や働き方を考える機会に位置付け、振り返りから未来へ、自己改革、全員経営、創立記念日の単発企画から時間軸のあるプロジェクトベースへという視点に立ち、周年企画を展開する。7月5日にはその一環として、最新の調査研究成果などを広く発信する発表会をリアルとオンライン併用で開く。「われわれの財産は人と官学民のネットワーク」とし、それを最大限に生かしながら、次期コアを「わいわい、がやがや考えていく」とほほ笑む。

 国土強靱化基本計画の改定や新たな国土形成計画の策定などが予定される2023年は「インフラ整備が問われる年」との認識を示す。今後必要になると提唱するのがインフラを巡る評価の新機軸だ。

 財政当局はインフラや国土強靱化の概成論を宣伝するが、論点を変えるべきと主張する。例えば、概成論は高規格幹線道路1.4万㎞のうち、1.3万㎞が供用または事業中であることなどを持ち出すが、「そもそも今の時代に、先進国でネットワーク論を語っていること自体がおかしい。脱炭素化を含め、インフラが社会課題の解決にいかに役立つかを打ち出さなければならない」と説く。

 ヒントは大規模な復興を遂げた東北にあるという。かつて、無駄な道路の代表格として事業化を凍結された三陸沿岸道路。東日本大震災の際には、わずかな開通区間が多くの命を救い、「命の道」と称された。その後、約10年という期間で全線開通に至り、「平時にも多様な効果を発揮している」。それは移動時間の短縮にとどまらず、周辺道路を含めた交通事故件数の大幅減少や観光の活性化、産業の立地、既存港湾の利用拡大、CO2削減など多岐にわたる。「交通量だけでは計れないものがたくさんある。三陸を代表例にして、地方の高規格道路の価値を再評価すべきではないか」とし、「現道は課題の宝庫。道路の哲学をネットワークからサービスに転換すべき」と訴える。

 脱炭素でも検討すべきことは多々ある。サプライチェーン全体を捉えた公共調達に向けた排出量算定ルールの確立と低炭素化技術の効果認証・データベース化、電気自動車に全車転換した場合に必要な発電量の確保、水力エネルギーの徹底追求など、ここでも次期コアの追求は尽きない。

 災害の教訓の伝承にも注力している。「教訓が伝われば命は救われる。しかし多くの人は、災害を『自分事化』していない。その時にどうすべきかといった情報が、あまり発信されていないことも問題の一つ。例えば、流域治水では、そこに住む人々の心を揺さぶる取り組みも必要だろう」



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