【戦時下のインフラ】日本工営ウクライナ復興支援室長兼キーウ事務所長・三浦良知氏に聞く | 建設通信新聞Digital

5月1日 水曜日

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【戦時下のインフラ】日本工営ウクライナ復興支援室長兼キーウ事務所長・三浦良知氏に聞く

三浦氏

 ロシアの軍事侵攻から2年余り。ウクライナでは今なお激しい戦闘が続く。戦況は膠着(こうちゃく)し、先行きが見えない中で復興への道筋を描こうと日本でも官民を挙げた取り組みが本格化しつつある。戦前から同国のインフラ整備に取り組んできた日本工営は、国際協力機構(JICA)や各省庁からウクライナ復旧・復興関連業務を数多く受託。継続的な支援態勢を整えながら、中長期的な視野から種々のプロジェクトを推進している。同社ウクライナ復興支援室長でキーウ事務所長も兼務する三浦良知氏に復興の現状と今後を聞いた。

 三浦氏は、2015年からボルトニッチ下水処理場改修事業所長として、首都キーウ市の全人口300万人の下水処理を担う巨大処理場の改修事業に携わってきた。詳細設計を経て入札支援による業者選定を進めていた時点でウクライナ情勢が緊迫、22年1月末に帰国を余儀なくされた。

 「退避の時はうそだろう、そんなことあるわけないじゃないかという感じだった」と率直に振り返る。その1カ月後に戦争が始まり、事業は中断されたままだ。

 旧ソ連時代に整備された施設・設備の老朽化は著しく、下水処理能力は大きく低下している。「言ってみれば未処理に近いような形で放流されてしまっている」だけに、本邦技術活用条件(STEP)を適用し、総額約1081億円の円借款を供与するこのプロジェクトは「本当に重要であり、日本、ウクライナ両政府ともにどうにかして戦争下でも実施できないかと今まさに検討を進めているところだ」と力を込める。

老朽化した下水処理施設


◇課題山積の中、復興の道筋模索

 ロシアによるミサイルやドローン攻撃が続く中で外務省はウクライナ全土の危険情報としてレベル4(退避勧告)を継続しつつ、復旧・復興に寄与する企業・団体が十分な安全対策を確保すればキーウ市に限り1週間以内の渡航を許可する制限緩和を2月19日に打ち出した。厳重な警護態勢を要するなど「コスト面でのハードルは高い」としながらも「案件ベースでは直接ウクライナに社員が入って支援活動することを前向きに考えていく」とし、特に「ボルトニッチ下水処理場はまさにキーウにあり、近い将来現地で活動することになるのではないか」と期待を寄せる。

 同社はロシア侵攻後、主要セクターの社会インフラの被害調査と支援策の検討など復旧・復興関連業務をJICAなどから今年3月時点で計11件受託し、七つのプロジェクトを実施中だ。これらの対応を一元化し、関係部署との情報共有と連携を促進する司令塔として23年4月にウクライナ復興支援室を設置。同年7月にポーランド・ワルシャワ事務所、同じく12月にはウクライナの現地拠点となるキーウ事務所を開設し、同国と周辺国の政府関係機関やドナー(援助供与国)、パートナーなどとの関係構築や現地での情報収集と実施中案件の支援などの活動を強化している。

 同社独自の取り組みでは、同年10月にウクライナ西部の都市リヴィウ市と包括連携協定を結んだ。「戦争の被害がほぼなく、欧州に最も近い玄関口として地理的優位性があり、今後の経済復興のけん引役として期待される」として、各種インフラ・都市開発プロジェクトの策定から実施段階まで両者が連携して取り組むことに合意している。

ウクライナと周辺地図


◇インフラ全てが老朽化

 戦争で破壊された都市基盤の復旧・復興に向けた検討業務の中で痛感するのは「ウクライナの全てのインフラが老朽化している」ことだという。いずれも旧ソ連時代に建設されたもので「破壊されたかどうかに関係なく全取っ換えが必要なぐらい古い。各都市の首長らにプライオリティは何かと聞くと全部だと言われる」とも。リヴィウ市にしても「破壊はされていなくても戦争で経済活動が低迷し、財政が厳しくなって本来やろうとしていたリニューアル事業が棚上げになったり白紙撤回されるという問題もある。これは二次的な被害であり、すごく大きな影響だ」とみている。

◇戦争の長期化が帰還を困難に

 もう一つ大きな問題とするのが「避難した人たちが戻ってくるかどうか」だ。戦争の長期化は、国内外で1000万人を超えるとされる避難民の帰還を困難にする。実際に同社の現地スタッフは避難したドイツで子どもが就学し、生活基盤もできつつある中で「いつ何が起こるかもしれないウクライナにはもう戻らないと話している」という。さらに「スキルドワーカーと言われる技術者がかなり国外に流出している」ことも今後の復興の課題に挙げる。

 これらの根源的な解決は戦争の早期終結に他ならないわけだが、いまだ収束する兆候のない中で「インフラが復旧していないと人は戻らないという前提の下、できることをやっていくしかない。インフラに関わる全セクターのエキスパートがそろっている強みを生かして、どんな形でもウクライナの復旧・復興に貢献したい」と前を向く。

 

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