CDEプラットフォームに「Catenda Hub」
グローバルBIMの矢嶋和美社長は、日本のBIMレベルを引き上げるためにも、オーナーを軸にプロジェクトメンバーが最大の成果を導く「日本版IPD(インテグレーテッド・プロジェクト・デリバリー)」の有効性を強く呼び掛けている。欧米を中心に導入が広がるカテンダ社の『Catenda Hub』を、CDE(共通データ環境)のプラットフォームに位置付け、中間ファイルのIFCによるデータ連携で誰もがつながり合う「オープンBIMの環境を早急に構築すべき」と強調する。
オーナー側で日本版IPD確立/日本法人設立しアジア進出拠点に
2017年4月に設立したグローバルBIMは、BIM導入支援、モデリング事業、ソフトウエア開発・販売など総合BIMサービス・プロバイダーとして多角的に事業展開してきた。創業時から力を注いできたオーナー側へのBIMコンサルティングは「近年、特にニーズが高まっている動きの一つ」と矢嶋氏は説明する。
例えばSCなどを全国展開するような事業者にとっては、資機材価格や労務費の高騰を背景に、新規出店の建設コストや調達リスクが増大している。一方で建設会社側も資材不足による調達の長期化懸念があり、受・発注者ともに“不安”を抱えている。
米国では、建築主を中心にプロジェクト初期から設計者、施工者、専門工事会社などが一つのチームとして協力し合い、プロジェクトを成功に導くビジネスモデルとして、IPDの枠組みが定着している。プロジェクトメンバーの専門分化が明確化している米国と異なり、日本は工事を請け負う施工者が全体のコスト管理を担うため、建築主をはじめ、他のプロジェクトメンバーが全体最適の視点からコスト低減や工期短縮を推し進めることが難しい。
矢嶋氏は「これまで設計事務所、建設会社、専門工事会社へのBIMコンサルティングを中心に展開してきた。これからはBIMを軸にオーナー側のコンサルティングにも積極的に展開し、わが国の生産システムに見合った日本版IPDを確立していきたい」と力を込める。
同社は、BIMを軸にしたPM(プロジェクトマネジャー)的な役割として、建築主や事業者などのオーナーが建築プロジェクトに対して具体的にアプローチできる枠組みを提示していく。現在の資材不足は工期に大きな影響を及ぼすだけに、着工前の設計段階から資材調達を進めることが求められる。特に鉄骨製作については早期発注による工期短縮効果が大きい。BIMを軸にワークフローを最適化し、フロントローディングの流れを整えることが前提になる。「重要なのはプロジェクトメンバー誰もが参加できるオープンBIMに準拠したCDEで情報を共有していくこと」と付け加える。
それを実現するプラットフォームとしてカテンダ社の『Catenda Hub』を位置付け、23年7月からは国内の販売代理も担ってきた。企業へのBIMコンサルを進める中で、既に35社が導入し、累計で250を超えるプロジェクトで活用さている。ゼネコンのBIMが拡大する中で、自社のBIMプラットフォームとして専門工事会社が導入を決めるケースも増えている。
Catenda Hubは、ノルウェー首都のオスロに拠点を置くカテンダ社が開発したCDEプラットフォームとして、23年度だけでも世界各地で5000超ものプロジェクトに活用された実績を誇る。導入が進む背景には、特定のソフトに依存せずデータ連携が行えるオープンBIM環境での情報共有が実現する点にある。BIM関連データに加え、2次元図面や写真、帳票類などプロジェクトに関係する情報の全てを管理でき、CDEの国際標準ISO19650にも対応している。プロジェクト単位での契約で、関係者の全てがWEBブラウザやスマートフォンアプリで参加できるオープンBIM環境を実現する使い勝手の良さも評価されているポイントの一つだ。
建築モデルのArchicadやRevit、鉄骨モデルのTeklaなどとのダイレクトリンクも完了しており、IFCにおけるシームレスなデータ連携環境が整っている。昨年には設備モデルのRebroとの連携も整った。維持管理段階のビルOSとも結びつき、建設ライフサイクルを通じたプラットフォームとしてもワンストップで活用できる。
カテンダ社のハーバード・ベルCSOは「欧州各国だけでなく、実は米国でもユーザーが着実に増え、Catenda HubをプラットフォームとしたIFCデータ連携が広がっている。今年8月に設立予定の日本法人を、アジア進出の拠点として位置付け、強力なビジネスパートナーであるグローバルBIMと密接に連携しながら、着実に事業を拡大していきたい」と明かす。
これまでもグローバルBIMではBIMコンサルを進める中で、CDE構築を検討する企業にCatenda Hubを提案、販売してきた。矢嶋氏は「今後、オーナー側へのIPDコンサルを進める上でCatenda Hubが欠かせないツールになる。われわれにとっては、活用したプロジェクトメンバーの建設会社や専門工事会社との結びつきも強まり、そこからBIM導入支援やモデリング事業の依頼も出てくる」と相乗効果を期待している。
両氏は「何よりも日本では25年度から動き出すBIM確認申請をきっかけに、IFCによるデータ連携の時代が到来する」と口をそろえる。当初はBIMソフトから出力した図面データ(PDF)を使って検査する枠組みとなるが、27年度以降からはBIMデータを使った自動チェックが動き出す見通し。出力する際のファイル形式としてIFCが前提となることから、一気にIFC連携の流れが色濃くなるからだ。
今年4月には、IFCの最新バージョンとしてIFC4.3が国際標準ISO16739として正式に認証された。オープンBIMの実現に向け、中間ファイルとなるIFCデータの標準を進めている国際組織のビルディング・スマート・インターナショナル(bSI)では、IFC5.0バージョンの準備も進行中。海洋や洋上風力の分野でもIFC化の議論が進んでいる。
「既に海外の大型プロジェクトではIFCによるデータ連携が主流になっている。私自身もオープンデータ環境でつながることの有効性を長年に渡って呼び掛けてきた」と語るベル氏は、bSIの中でも数人しか存在しないフェローの名誉も受けており、矢嶋氏とは18年に東京で開かれたbSI国際サミットで出会い、22年のスイスサミットで、CDEの有効性について意見が一致したことが縁となった。
Catenda Hubは、日本のオープンBIMプラットフォームとして広がりを見せ始めている。利用料はアクセス人数で課金されるのではなく、プロジェクトごとの契約となるため、関係者の多い大規模プロジェクトでも安価に利用できる点も魅力だ。ベル氏は「誰もがオープンに使える『The Open Way』をこれからも追求していく」と力を込める。
矢嶋氏は「施工現場は仕事に追われ、BIMへの対応も求められている。BIMデータで共有するだけが答えではない。3次元と2次元を効果的に使い分けながら迅速な判断できることでより迅速に業務をこなすことができる。プロジェクト関係者がさまざまなデータ形式で利用できるオープンBIMの環境こそが、これからの日本にとって重要な枠組みになる」と強調する。