東畑建築事務所はD×デザイン室の発足に合わせるように、品質推進本部を「技術本部」に改変した。近年の設計活動ではZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化など環境配慮の視点が不可欠となり、BIMデータを活用した環境シミュレーションを導入するケースが大半を占め、設計品質向上のツールとしてBIMが定着している。岡本茂常務執行役員技術本部長は「社内ではBIMデータを使い、設計の付加価値づくりを進めている。品質の向上はわれわれにとっての技術力の成果であり、それを反映した名称に変更した」とその理由を明かす。
同社は、創業者・東畑謙三の理念『最大よりも、最優たらん』に基づき、一貫してクライアント側の視点を大切に品質確保を最優先して成長してきた。計画立案から設計、施工、維持管理まで建築ライフサイクルを通じて「クライアントに寄り添う手段としてもBIMが効果を発揮する」ことから、同社はBIMと設計品質の関係性を強く結び付けている。
時間外労働時間の上限規制が始まり、従来の品質を確保するためにBIMによる業務効率化や省人化を推し進めることも、品質確保につながる取り組みの一つに他ならない。岡本氏は「われわれの技術力はまさにクライアントへの貢献につながる。BIMを使いこなすことで技術力を高め、設計の価値を創出していく」と強調する。
社内では2022年11月にDXタスクフォースを発足し、設計、運用、維持管理の3ワーキングループ(WG)が動き出した。DXタスクフォース座長も務める岡本氏は「BIMを軸にデジタル活用を推し進め、設計品質の新たな価値につなげていく」と語る。BIMとDX(デジタルトランスフォーメーション)の融合を図るため、BIM推進室をD×デザイン室に変更したことは、技術本部の改変と密接につながっている。
DXタスクフォースには意匠、構造、設備の各部門から15人を選抜した。新たな設計手法を模索しつつ、クライアントに寄り添うための品質向上に力点を置いたDXを前提に活動を進めている。重点テーマの一つとして位置付けるのが維持管理段階へのBIMデータ活用だ。運用、維持管理の両WGでは設計段階から効果的な運用方法や、IoT(モノのインターネット)を活用した維持管理手法などを考察している。
構造設計室の主管としてD×デザイン室に所属し、DXタスクフォースの主要メンバーでもある山本敦氏は「建築情報を構造化されたデータとして蓄積していくことが業務の自動化やAI(人工知能)への展開に必要不可欠だが、一方で維持管理段階にBIMを手軽に活用できるという視点はクライアントとの結び付きを考える上で重要になる」と説明する。
東洋ビルメンテナンスの研修所新築プロジェクトでは、維持管理段階へのBIMデータ活用を施主と連携して進めた事例の一つだ。国土交通省の建築BIM推進会議と連携し、BIMの導入メリットを検証する事業にも採択された。そこではオートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を基盤にBIMソフト『Revit』と表計算ソフト『エクセル』を連携させ、汎用(はんよう)的なアプリケーションを使ってBIMを活用した維持管理業務の効率化に取り組んだ。
山本氏は「これに興味を持ったクライアントから導入検討の相談があり、専用アプリケーションの開発や専門的なソフトウエアを導入した高度な維持管理とは別に、手軽に取り組める維持管理BIMには一定のニーズがある」ことを実感している。このようにDXタスクフォースの各WGではアイデアを一つひとつ形にしている。DXへの取り組みに並行するように、進行中のBIM導入プロジェクトでは外部連携の動きも広がってきた。