東畑建築事務所が6月1日付でBIM推進室を「D×デザイン室」に改変した。これは同社のBIM活用が新たなステージに入ることを物語る。あえて名称に「X」ではなく「×」を使い、デジタルデータとデザインの融合によって設計の付加価値につなげる思いを込めた。BIMを出発点に設計の進め方や情報共有の在り方は大きな変化を見せ始めている。進展する東畑BIMの歩みを追った。
「組織設計事務所の先頭でBIMをけん引するのではなく、トップグループの中でBIMの実力を付けながら、身の丈に合った当社らしいBIMの確立を目指す」。社内の先導役となる上羽一輝D×デザイン室長はBIMの階段を一歩ずつ着実に上がっていくことを重要視している。
設計ツールとして使っていたオートデスクの汎用(はんよう)CAD『AutoCAD』との親和性を考慮し、標準BIMソフトを『Revit』に決めたのは2009年。当初はRevitへの完全移行を目指してきたが、実績を重ねる中で「Revitを軸にAutocadを効果的に使う流れが定着している」と説明する。
基本設計ではAutoCADでシングルプランを描き、Revitでモデリングする流れが主体となっていたが、最近は基本設計から実施設計まで一貫してRevitで取り組むケースも出てきた。手間のかかっていた設計変更に伴う見直しなどの作業をRevitの中でより効果的に処理できることも後押しになっている。
上羽氏は「若手を中心にBIMの裾野が広がり始めている。この流れを発展させ、これからは実施設計への展開に乗り出す」と強調する。目線の先にあるのはBIM確認申請への対応だ。国土交通省は25年度から確認申請のBIM図面審査をスタートすることを決め、27年度以降からはBIMデータを使った自動チェックも計画している。「国の動きに合わせるためにも、実施設計のBIM対応を前提に取り組んでいく」と先を見据えている。
工場プロジェクトでは、確認検査機関の日本ERIと連携し、オートデスクの建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』を使った確認申請の事前審査にもチャレンジした。クラウド上のBIMモデルで不整合などの確認が行われ、完了後には検査機関のクラウドにデータをアップロードする流れを試みた。「BIM確認申請が現実味を帯びれば社内の意識も変わり、BIMとの距離感も縮まってくる」と受け止めている。
設計チームは、設計総括を頂点に、業務をマネジメントする担当責任者を配置し、その下に意匠、構造、設備の各主任担当が任命される。20代、30代の若手は率先してBIMを指向し、意匠ではモデリングツールと連携しながらRevitを効果的に使う設計担当も少なくない。「40代以上となる担当責任者クラスのBIM意識を定着させることが、実施設計への展開を見据える上での重要なテーマ」と位置付けている。
同社がBIM導入に力を注ぐ背景は、確認申請などの外的要因だけではない。上羽氏は「顧客と向き合い続ける上で設計品質の向上が前提になり、それを下支えするツールとしてBIMが有効に機能する」と強調する。D×デザイン室の発足と同時に、社内では品質推進本部を「技術本部」に変更したことも、BIM定着の流れと深く関係している。