【BIM未来図】前田建設(中) | 建設通信新聞Digital

5月7日 火曜日

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【BIM未来図】前田建設(中)

専門工事会社の生産性向上につなげる/アトアレはアイコーが下支え

 前田建設の建築現場で浸透する鉄筋/配筋BIMシステム『アトアレ』は、オートデスクのBIMソフト『Revit』をベースとしたアドインツールだが、専門工事会社が使う加工図ソフトとのデータ連携が整わなければ、その枠組みは成立しない。開発時から鉄筋工事会社のアイコー(東京都中央区)が参加してきたのも、現場で使われている加工図ソフト『DIN-CAD』とデータの流れを厳密に検証する必要があったためだ。

 DIN-CADは、オートデスク汎用(はんよう)ソフト『AutoCAD』のアドオンツールとしてアイコーグループ会社のデーバーインフォメーションネットワーク(東京都中央区)が2009年に開発した。当初は自社の業務ツールとして位置付けていたが、アイコーの職人が活用している姿を見た他社から評判が口コミで広がり、14年から外販に乗り出した。

 実は、アイコーには他のゼネコンからもDIN-CAD連携への相談があったという。藤池晴行常務執行役員は「専門工事会社目線のBIMを構築したいという前田建設の熱い思いに賛同し、アトアレの開発に全面協力してきた」と振り返る。同社では職長20人と協力企業の職人40人の計60人全てがDIN-CADを使っており、鉄筋工事業の中でも先陣を切ってデジタル化に取り組んでいただけに「社を挙げてBIM連携を実現したい」との思いを持っていた。

アイコーでは鉄筋納まり検討業務依頼が増加

 大手・準大手ゼネコンを中心に建築プロジェクトへのBIM導入が拡大する中で、呼応するようにDIN-CADの販売も右肩上がりに推移している。デーバーインフォメーションネットワークの長嶋一浩取締役常務執行役員は「現在の契約数は500ライセンスを超え、順調に伸びており、関東中心だったユーザーも全国に広がり始めている」と強調する。

 近年の建築現場では外国人労働者の姿も目立ち、専門工事会社にとってはBIMによる可視化が有効なコミュニケーションツールにもなっている。DIN-CADを業務ツールとして現場で積極的に展開する流れがきっかけとなり、ゼネコン側から鉄筋の納まり検討業務を依頼されるケースも増えてきた。施工企画部の岩永幸治部長は「もともと2次元で納まりを検討するケースは以前からあったが、前田建設とのアトアレ開発に取り組んだことでBIM活用という武器を手に入れることができ、それが後押しする形で業務依頼に発展している」と強調する。

 アイコーでは22年度からアトアレを活用した鉄筋の納まり検討を本格的に始めた。現在は年間60件の鉄筋工事に携わる中で、アウトソーシング業務は4割ほどを占めるまでに拡大している。藤池氏は「当初は営業活動の一環として無償で納まり検討を進めてきたが、現在はフィービジネスとして成長している」と手応えを口にする。

 開発当初から月2回のペースで開いてきた前田建設とアイコーの調整会議は、現在も同様のペースで続いている。両社から毎回計10人ほどが参加している。アイコーの舘野邦之施工企画部課長は「既に標準仕様には完全対応しており、現在は特殊形状にも幅広く対応できるようにデータ連携環境を整えている」と明かす。

 アトアレは、前田建設の現場で既に70件を超える導入実績がある。同社ICI未来共創センターリサーチ・事業化グループの龍神弘明シニアプロデューサーは「常に現場の声を形にしながらアトアレを進化し続けている」と説明する。社内では鉄筋工事以外の工種でも専門工事会社との連携を軸にしたBIMのシステム開発が進行中。建築事業本部BIMプロダクトセンター建築BIM推進グループの渡邉寛也グループ長が「われわれの生産性向上は、専門工事会社の生産性向上につながらなければいけない」と強調するように、同社のBIMは専門工事会社との二人三脚で進んでいる。

アトアレは鉄筋部材をBIM上で自動配置



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