【BIM未来図】前田建設(上) | 建設通信新聞Digital

5月5日 日曜日

B・C・I 未来図

【BIM未来図】前田建設(上)

 前田建設が、専門工事会社とのデータ連携を重視したBIM導入に軸足を置いている。2020年から建築プロジェクトの鉄筋工事に導入を始めた鉄筋/配筋BIMシステム『アトアレ』が、その出発点となった。ICI未来共創センターリサーチ・事業化グループの曽根巨充担当部長は「専門工事業にインセンティブ(動機付け)をもたらすBIMを確立し、ともに成長していきたい」と強調する。同社が目指す施工BIMの方向性を追った。
専門工事会社との密接な連携に軸足/鉄筋の生産性向上ツール確立

アトアレの導入実績は70件超

 アトアレは、構造計算データと仕様書から鉄筋部材をBIM上で自動配置し、設計BIMを参照しながら検討が必要な個所を抽出して、配筋検査を自動化する。同社が施工段階で標準化するオートデスクBIMソフト『Revit』のアドインツールとして開発した。導入実績は20年の試行開始から、これまでに70件を超える。鉄筋工事の生産性向上ツールとして全国の現場で導入が広がっている。

 建設現場における配筋の不具合は、組み立て作業後となる配筋検査のタイミングにならないと発見できなかった。図面作成段階に仮想空間上で対処できれば、現場の生産性向上に大きく寄与し、専門工事会社にとっても現場での手戻りを大きく軽減できる。16年からスタートした開発のパートナーとして、鉄筋加工ソフト『DIN-CAD』を業務ツールとして使っていた鉄筋工事会社のアイコー(東京都中央区)に声を掛け、二人三脚で取り組んできた。

 曽根氏は「専門工事会社とのデータ連携が前提になり、アイコーとは月2回のペースで会議を開き、鉄筋工事におけるBIM活用を徹底的に研究し、お互いのノウハウを形にしてきた」と説明する。開発期間は4年にもおよんだ。鉄筋工事のデジタル化について意見を交わし、部材の自動配置ルールに加え、加工時に部材の伸び方なども検証し、BIMワークフローについても確立した。

 図面作成、鉄筋加工、配筋・組み立て、配筋検査という作業プロセスの中で、構造計算データから作成する図面作成段階を「鉄筋BIM」、加工図に基づいた段階を「配筋BIM」と位置付け、BIMデータの流れを分かりやすく規定することで、それぞれの役割分担も明確化した。

 専門工事会社は前田建設から提供された鉄筋BIMをもとに加工図を作成し、前田建設は専門工事会社から戻された加工図データを配筋BIMデータに変換する。開発では専門工事側のツールとしてDIN-CADを位置付け、双方向のデータ連携を検証してきたが、別の加工図・加工帳作成ソフトにも対応できるようにオープンな連携環境を整えている。

 アトアレの導入は年30現場を超える勢いで伸びている。鉄筋の納まり検討に必要なデータ作業はほぼ自動化となるため、従来比で9割の時間短縮を実現するなど大幅な生産性向上効果が現れている。建築事業本部BIMプロダクトセンター建築BIM推進グループの渡邉寛也グループ長は「われわれだけでなく、専門工事会社側にも導入効果がはっきりと出ている」と付け加える。

鉄筋納まり検討は9割の時短が実現


 現場では、自動配筋検査によって正しく作成された鉄筋BIMデータを専門工事会社が使う流れとなり、加工図や加工帳の作成作業は6割の短縮となった。組み立て作業前に現場関係者が完成形データを確認できることから、専門工事会社側の配筋検査も手戻りが大幅に減り、最大5割の低減を実現する現場もあるという。

 これまで専門工事会社側との打ち合わせは2次元図面で進めてきたが、現在は3次元モデルを使って進めるケースが多くなった。専門工事会社からの質疑書も3次元モデルから抜き取った画像を使うことでより理解度も増している。建築BIM推進グループの大場巧巳氏は「設計・施工案件だけでなく、他社設計のプロジェクトでもアトアレの導入効果が出ており、社内では着実に浸透している」と説明する。24年度はさらに導入数が拡大する見通しだ。



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