【BIM未来図】前田建設(下) | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

B・C・I 未来図

【BIM未来図】前田建設(下)

専門工事会社と二人三脚フロー確立/設備、とび・土工でも最適化

左から龍神氏、大場氏、渡邉氏、曽根氏、藤池氏、長嶋氏、岩永氏、舘野氏


 前田建設は、鉄筋/配筋BIMシステム『アトアレ』を出発点に、他の工種でも専門工事会社との円滑なBIM連携環境を整えようと動き出している。ICI未来共創センターリサーチ・事業化グループの曽根巨充担当部長は「既に設備やとび・土工でも専門工事会社とのBIM連携を積極的に展開しており、全体最適の枠組みを形づくる」と説明する。

 データ連携の軸には、施工段階の標準BIMソフトとして活用するオートデスクの『Revit』を位置付けている。各工種の専門工事会社もBIMツールとしてRevitを活用するケースが多いことから、各現場ではRevitデーターの連携事例が着実に増えている。鉄骨工事では生産性の向上だけでなく、有効な安全対策の手段としても活用できると、部材の建て方を見える化するほか、鉄骨ファブリケータ側にもBIMデータを共有する流れを確立しようとしている。

 2022年からは、各工種で先行する専門工事会社のBIM導入効果を共有し、デジタル化のリテラシー向上にも結び付けてもらいたいと、専門工事会社向けのBIM/ICTオンラインセミナーを年1回のペースで開いている。23年10月に開催したセミナーには、鉄筋工事で約20社、設備工事で約35社、とび・土工で約25社が参加した。

 先行してBIMの導入効果を得ている専門工事会社の活用事例を紹介し、他の専門工事会社にもBIM連携のポイントを水平展開することが狙いだ。鉄筋工事のセッションではアトアレを活用する鉄筋工事会社のアイコー(東京都中央区)が登壇した。4月からは建設業に時間外労働の上限規制が適用され、生産性向上は専門工事会社にとっても直近の課題だ。曽根氏は「実際の工事でわれわれと連携しながら、どうやってBIMを有効活用しているかを同業各社に知ってもらい、まずはデジタル化と向き合ってもらうことが第一歩になる」と考えている。

 前田建設にとっては先行している鉄筋工事でもBIMデータ活用の余地がまだ残っているという。納まり検討のイメージによる可視化だけではなく、生産プロセスで正しい情報が次工程に流れていくワークフローを確立することが到達点の一つだ。図面作成、鉄筋加工、配筋・組み立て、配筋検査という流れで進む鉄筋工事の作業プロセスでは、鉄筋の加工から物流、施工、検査に至る部分についてもデジタル化を実現する青写真を描く。

 既に社内では、設計段階から施工部門が参画するフロントローディング(業務前倒し)の流れを加速させており、これからは仮想空間上で確定した生産情報を実空間で再現するデジタルツインの領域にも踏み込んでいく。オートデスクともRevitデータと現実空間の融合に向けた検討などをさらに推し進める計画だ。

前田建設とアイコーの調整会議は現在も続いている

 ゼネコン各社で広がる施工段階のBIM活用は、元請け企業から生産情報を受け取る専門工事会社側のデジタル化への対応力をどこまで引き上げるかが重要になる。建築BIM推進グループの渡邉寛也グループ長が「専門工事会社に対してデジタル化を推進するインセンティブ(動機付け)をきちんと明示することが何よりも大切」と強調するように、プロジェクト関係者それぞれが効果を享受できる全体最適のBIMワークフロー確立が強く求められる。

 前田建設ではアトアレから始まった専門工事会社との密なBIM連携の考え方が他の工種にもつながろうとしている。曽根氏は「社を挙げてBIM導入に踏み切った当初から、専門工事会社とのデータ連携をしっかりと進めていく流れを確立してきた。アトアレを出発点に、われわれが描く施工BIMの形が着実に進展しつつある」と強調する。専門工事会社と二人三脚で進む前田建設のBIM展開は、新たなステージを迎えようとしている。



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