■進行するBIMデータ管理
データ統合は位置情報が重要に/要件定め「共通理解」促す
――BIM要件の狙いは
山田 大阪・関西万博は、Society5.0の実現に向けた実証の場となります。会場建設に加え、開催機運を高めるプロモーション活動、開催中の施設運営、閉会後のレガシー活用という各段階で、3次元モデルの活用が必須となるだけでなく、BIM手法を推進する視点からも取り組んでいます。
会場施設を設計、施工する参加者には設計ツールとしてBIMを活用してもらい、設計の成果としてBIMデータの提出を求めています。このBIM要件は、参加者にBIMへの共通理解を促し、会場建設のBIM活用水準と会場全体のBIMデータ水準を統一することを目的にしており、参加者が適切にBIMを利用し、完成したBIMデータが一定の水準を満たしているかなどを確認し、データ提出の体制も整えてきました。
山際 これだけの大規模なプロジェクトの参加者にBIM要件を設定する事例は世界的にも珍しく、日本でも初の試みとなります。国土交通省のBIM推進会議でBIM普及の議論が本格化し、建築プロジェクトへのBIM導入促進に向けた加速化事業も動いています。日本におけるBIM導入の気運が高まる中で、大阪・関西万博の取り組みは日本のBIMステージを押し上げるきっかけになると考えています。
BIMプロジェクトの成功には、プロジェクト関係者が情報を共有するためのCDE構築が前提になります。大阪・関西万博はプロジェクト関係者が多岐にわたります。今回はCDEプラットフォーム上でBIMデータの共有化だけでなく、マイクロソフトのTeamsを組み合わせ、情報共有のコミュニケーション向上とエビデンスの把握にも取り組んでいます。
協会が策定したBIM要件では、参加者が提出するBIMデータのファイル形式をRevitデータに統一した点も注目できるでしょう。ただ、会場建設にかかわる多くの参加者に幅広く対応する必要もあり、実際にはデータ統合管理を円滑に行う上でRevit以外のデータ提出にも対応してきました。提出データの中には2次元データを後付けでBIM化したようなケースも見受けられましたが、参加者の多くは自らのBEP(BIM実行計画)に準拠してBIMデータを作成しており、日本企業のBIMレベルが着実に進展していることを実感しています。
――データ管理の状況は
山田 基本設計では意匠、構造、外構のデータ提出を求めていますが、設備については任意としています。実施設計では設備を含めたデータの提出を求めています。BIM要件にはモデルの作成における「表現するオブジェクトの目安」についても記載しています。これは初めてBIMを作成する人たちの参考なればと考えたためです。
どこまでオブジェクトを表現するかは、参加者の判断としました。実施設計時の基本設計の目安に加え、必要な情報を追加についても、個々の状況に応じて参加者が判断するような枠組みにしています。詳細度については、実施設計時にはLOD(モデル詳細度)300は目標値としていますが、LOD200以上のデータでも可としています。
山際 当社は協会からBIMデータマネジメント業務を受託し、BIMデータの統合支援をしています。約190にも及ぶパビリオンなどの関連施設からBIMデータの提出を受けています。参加者には当社が提示した参考フォーマットに基づき、BEPを作成してもらい、提出されたBIMデータがBEPどおりに構築されているかを確認し、データの統合を進めています。
CDEの構築と運用の両方を担う中で、特にビューア機能、コミュニケーション機能、データ保管の3点を重要視してCDEを構築してきました。参加者のBEPに基づいて提出されたデータが、協会が示したBIM要件に合っているかを確認してきました。特にデータ統合のポイントになる位置情報のチェックについては重要視してきました。
これは当社の日頃の業務で企業に対してBIMのコンサルティングを進める際も同様です。意匠、構造、設備の統合モデルを作成する企業は増えており、その際にモデルの基準点がしっかり定まっていないと、モデル統合がうまくいきません。これは今後、運用されるBIM確認申請でも重要なポイントになります。今回の経験を生かして当社としてCDEの定義を示していきたいとも考えています。
――BEPの位置付けは
山田 BEPについては、規定したBIM要件を建設プロジェクト全体で遵守するための基準となる文書として定めています。建設プロジェクトの建設工程(基本設計、実施設計、施工)ごとに体制や役割・責務、BIMの利用用途などを明確にした上で、参加者が作成することを位置付け、各建設工程で計画内容の大半が同じ場合は一つのBEPにまとめても良いとしました。あえて様式も定めず、参加者が対応しやすいようにしました。
山際 当社のBIMコンサルティングではBEP策定の支援からBIMマネージャの支援まで幅広く取り組んでいますが、今回の業務を経験して、BEPの重要性を改めて実感しました。企業が社を挙げてBIMを導入するためには、まずCDEを整備し、BEPに基づき、BIMプロジェクトを的確にマネジメントする流れが求められます。大切なのはきちんとしたBEPを策定することであり、それによって目標が明確化し、方向性が定まります。まさにBEPに基づいてプロジェクトを的確に管理するBIMマネージャの存在が重要になります。
――BIMをどう活用するか
山田 会場建設にかかわる参加者は、それぞれの視点、目的からBIMデータを活用されるものと思いますが、協会としては会場デザインやシミュレーション、バーチャル万博の3Dデータ作成、リユースなどの検討に活用したいと考えています。また、参加者がどの程度BIMを用いた取り組みを行っているかを包括的な記録として残すことも検討しています。
会場全体のBIMデータの活用にあたっては、参加者から提出された個々のデータを統合する作業を進めています。ビム・アーキテクツには統合データ化に伴い、より利用しやすい状態にデータを整理してもらっています。また、閉会後は協会の権利を引き継ぐ者が、本博覧会の足跡を後世に残すことを目的として、利用することも想定されます。協会や協会の権利を引き継ぐ者が、この利用目的の範囲内においてデータ利用が可能となるよう、参加者に提出データに含まれる知的財産の扱いを取り決めてもらうようにしています。
山際 国土交通省はBIMデータから出力した図書を建築確認申請に使うBIM図面審査を26年春から開始することを決め、29年春からはBIMデータ審査に乗り出す方針を持っています。このように日本のBIMは新たなステージに入ろうとしています。大阪・関西万博がBIM要件を定め、CDEプラットフォームを構築して施設整備を進めることは、日本のBIM普及を先導するきっかけになると考えます。この動きが契機となり、官民のプロジェクトでもBIM指定の流れが今後拡大するでしょう。当社はこの経験を今後のBIMコンサルティング活動に生かし、日本のBIMレベル向上を後押しできればと考えています。