千代田エクスワンエンジニアリングのライフサイエンスプロジェクト(LSP)本部では、医薬品・食品・化粧品関連の工場や研究施設を事業化検討から設計、工事まで一貫して手掛けている。プロジェクトの特性に応じて建築や生産設備ユニットの担当者が全体調整役となるPMr(プロジェクト・マネジャー)を担っている。
同社が強みとする医薬品関連の施設は、製造対象によって建物特性が大きく異なる。原薬工場では装置レイアウトやプロセス配管の設計に応じて建物の規模や仕様が決まるため、生産設備ユニットがPMrの役割を担う。製剤工場では建築物としての設計要素が強まることから、建築ユニットが主体になって全体を統括する。
2021年8月に竣工したS造4階建て延べ1万1000㎡のカナエ栃木工場第3工場棟では、建築ユニットの九里俊夫氏が建築主担当として設計全体の取りまとめ役を担った。オートデスクのBIMソフト『Revit』を効果的に使いこなす社内推進役の1人だ。製剤工場は医薬品の品質を担保するため、清浄環境の維持が求められる。「製造工程に応じて、清浄度や内装仕上げ、気密性など細かな仕様を決めていく必要がある。詳細な設計情報をモデル上にインプットすることにより、データベースとして建物情報をトータルに管理ができるRevitの特徴を最大限に発揮し、プロジェクト関係者との調整も円滑に進めることができた」と振り返る。
Revitの活用方針を打ち出したのは21年にさかのぼる。旧千代田テクノエース時代に発足したBIM推進タスクフォースが出発点となり、社を挙げてBIM導入を進めてきた。それまでは担当者同士の情報交換が不足していたこともあり、担当者それぞれでRevitの描き方が異なり、別の担当が修正を加えることが難しい状況があった。坂本昌祥LSP本部副本部長は「現在は建築、設備電気、生産設備の3ユニットが一つになり、本部内の融合が進んでいる」と手応えを口にする。
千代田化工建設のグループ3社が統合した同社は、23年4月の発足から丸2年が経過した。野田繁構造改革・デジタル推進担当は「発足初年度は旧社それぞれのことを知る共有の1年だった。2年目の24年度はBIMを柱にプロジェクト系デジタルのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に力強く踏み出した。そして25年度からは本格的なBIM活用に向けて走りだすフェーズに入る」と明かす。DX推進にはBIM推進関係者を含むプロジェクト部門にコーポレート部門のITマネジメント部なども加わり、総勢約50人の体制で挑む。
伊藤卓社長は「社を挙げて取り組むDX戦略の一つの柱はBIMであり、これは当社にとっての成長戦略に他ならない」と思いを込める。既に19年からはベトナムの設計支援会社ACSD社(Aureoleグループ)と連携したRevitのワークシェア体制も確立している。「このようにアウトソーシングを効果的に取り入れながら、業務効率化や組織の人的資源の最適化を図り、社員1人当たりの生産性をさらに引き上げていく」と強調する。
その目線は10年先に向けられている。「組織規模を維持したまま、業績を着実に拡大していくには、BIMを軸にしたプラットフォームを確立し、さらに生産効率を引き上げていく必要がある」。同社のBIMはLSP本部を起点に、社内の各本部や千代田化工建設グループ、さらには海外にもつながろうとしている。同社はBIMの階段を力強く上り始めた。