【一丁目一番地は財務戦略】
投資家が求めるハードルは当然ながら高い。そして、経営陣がその対応だけに終始してしまっては本末転倒だ。では、経営者はどうすれば良いのだろうか。「情報開示を行い、投資家とのコミュニケーションを進めていくことが株価の安定に欠かせない」と断言するのは日本総合研究所の近藤大介シニアマネジャーだ。取り組むべき一丁目一番地だという財務戦略の重要性について聞いた。【選ばれる企業が勝つ/日本総合研究所シニアマネジャー 近藤大介氏】
「建設業は工場や生産設備を持つ製造業と比べると資産が薄い。その意味で事業規模を大きくしていかないと再投資先が見つからず、現金が余っていく構造にある」と分析する。結果として、投資家が重視するPBR(株価純資産倍率)とROE(自己資本利益率)が低い状況では、配当や自社株買いといった還元策が求められていく。
「リーマン・ショックやコロナ禍でも日本企業の多くが倒産しなかった理由として、内部留保の多さが注目された時期もあった。一方、『会社は誰のものか』という議論の中で、株主にリターンを出していくというトレンドが強まっている。どちらが正解かというものではなく、適切な還元は必要であるし、現金が薄くなり過ぎて倒産しては意味がない」と説明する。
一昔前は日本独自の商習慣であるメインバンク制がその調整弁機能を果たしてきたが、今や多くを期待することは望めない。これからはどのようにガバナンスを効かせ、誰の方を向いて経営をするのか。近藤氏は「企業価値向上という意味では財務戦略が最重要となる」と強調する。
近藤氏が主張する財務戦略は、自社株買いや増配といった単なる株価向上策ではない。「株価が上がるROE向上を実現するための計画を練り上げる視点がポイントとなる。それには株主配当だけを厚くすれば良いわけではなく、従業員や協力会社などエコシステム全体で考える必要がある。それを進めていくことで、株式市場からも人材市場からも取引先からも、選ばれる企業となる。結果として市場で勝てる企業になるはずだ」と言い切る。
その意味で成長戦略は財務戦略実現の裏付けとなる。「成長戦略は財務戦略の具体的なアセットアロケーション(資産配分)の根拠として、投資家との対話に際し必要となる。やはり株主目線では、いくらリターンがあるのかが第一だ。財務戦略の根拠としての成長戦略を理論立てて説明できることで、『この会社は成長戦略があり、将来の業界構造を見据えて対応している』ことが投資家目線で腹落ちすれば、買いが増す」と話す。
裏を返せば、財務戦略なき成長戦略は企業のビジョンとして不完全なものと言える。『投資をしました』『技術を開発しました』という投資家向け情報提供(IR)ではなく、その投資や技術が企業価値の向上にどう貢献するのか。ステークホルダーに“価値創造ストーリー”を提供することが経営者の責務だ。
(こんどう ・だいすけ)2009年京大大学院工学研究科建築学専攻前期博士課程修了。建設・不動産、鉄道会社を中心に組織・業務改革、M&A・アライアンス、事業戦略など幅広いテーマのコンサルティングを手掛ける
投資家が求めるハードルは当然ながら高い。そして、経営陣がその対応だけに終始してしまっては本末転倒だ。では、経営者はどうすれば良いのだろうか。「情報開示を行い、投資家とのコミュニケーションを進めていくことが株価の安定に欠かせない」と断言するのは日本総合研究所の近藤大介シニアマネジャーだ。取り組むべき一丁目一番地だという財務戦略の重要性について聞いた。【選ばれる企業が勝つ/日本総合研究所シニアマネジャー 近藤大介氏】
「建設業は工場や生産設備を持つ製造業と比べると資産が薄い。その意味で事業規模を大きくしていかないと再投資先が見つからず、現金が余っていく構造にある」と分析する。結果として、投資家が重視するPBR(株価純資産倍率)とROE(自己資本利益率)が低い状況では、配当や自社株買いといった還元策が求められていく。
「リーマン・ショックやコロナ禍でも日本企業の多くが倒産しなかった理由として、内部留保の多さが注目された時期もあった。一方、『会社は誰のものか』という議論の中で、株主にリターンを出していくというトレンドが強まっている。どちらが正解かというものではなく、適切な還元は必要であるし、現金が薄くなり過ぎて倒産しては意味がない」と説明する。
一昔前は日本独自の商習慣であるメインバンク制がその調整弁機能を果たしてきたが、今や多くを期待することは望めない。これからはどのようにガバナンスを効かせ、誰の方を向いて経営をするのか。近藤氏は「企業価値向上という意味では財務戦略が最重要となる」と強調する。
近藤氏が主張する財務戦略は、自社株買いや増配といった単なる株価向上策ではない。「株価が上がるROE向上を実現するための計画を練り上げる視点がポイントとなる。それには株主配当だけを厚くすれば良いわけではなく、従業員や協力会社などエコシステム全体で考える必要がある。それを進めていくことで、株式市場からも人材市場からも取引先からも、選ばれる企業となる。結果として市場で勝てる企業になるはずだ」と言い切る。
その意味で成長戦略は財務戦略実現の裏付けとなる。「成長戦略は財務戦略の具体的なアセットアロケーション(資産配分)の根拠として、投資家との対話に際し必要となる。やはり株主目線では、いくらリターンがあるのかが第一だ。財務戦略の根拠としての成長戦略を理論立てて説明できることで、『この会社は成長戦略があり、将来の業界構造を見据えて対応している』ことが投資家目線で腹落ちすれば、買いが増す」と話す。
裏を返せば、財務戦略なき成長戦略は企業のビジョンとして不完全なものと言える。『投資をしました』『技術を開発しました』という投資家向け情報提供(IR)ではなく、その投資や技術が企業価値の向上にどう貢献するのか。ステークホルダーに“価値創造ストーリー”を提供することが経営者の責務だ。
(こんどう ・だいすけ)2009年京大大学院工学研究科建築学専攻前期博士課程修了。建設・不動産、鉄道会社を中心に組織・業務改革、M&A・アライアンス、事業戦略など幅広いテーマのコンサルティングを手掛ける