建設用3Dプリンターの活用が現場で急拡大している。その原動力の一つが、導入に前向きな地域建設企業の存在だ。大手ゼネコンも技術開発にしのぎを削り、トップダウンとボトムアップの両面から技術が浸透するという、これまでにあまり見られなかった動きを見せている。背景には、業界全体に共通する「担い手不足」という課題があり、その解決策として期待を集めている。こうした社会的要請を受け、土木学会は1年半という短期間で技術指針を策定した。議論を主導した石田哲也東大教授らに話を聞いた。
土木学会コンクリート委員会の建設用3Dプリンターによる埋設型枠設計・施工に関する研究小委員会は、2023年9月から25年2月までの約1年半の議論を経て、国内初となる建設用3Dプリンターの指針「建設用3Dプリント埋設型枠を用いたコンクリート構造物の技術指針(案)」をまとめた。
この指針は、3Dプリント技術をコンクリート構造物の構築に活用する際の構造計画、設計、製造、施工、品質管理、検査、維持管理に関する基本的な考え方や手順を整理し、試験方法の基準案や設計例、プリント事例なども付録として掲載している。小委員会の委員長には石田教授、副委員長には建山和由立命館大教授、幹事長には國枝稔岐阜大教授が就いた。
特筆すべきは、さまざまな規模の企業が委員として参加した点だ。JR東日本や大手ゼネコンなどのほか、スタートアップ(新興企業)で3DプリンターメーカーのPolyuse(ポリウス、東京都港区)や、砂子組、加藤組、吉村建設工業など地域に根差した建設企業も名を連ねた。
石田教授は今回の指針策定について、「異例のスピードだった」と振り返る。背景には、現場における埋設型枠の活用が急速に広がっている現状がある。「性能や品質といった基本的な水準を守り、業界の健全な発展を促すためにも早期にガイドラインを提示する必要があった」と語る。
石田教授によると、普及の中心的な役割を担っている企業の一つがPolyuseだという。同社は国土交通省の全地方整備局で施工実績があり、施工総件数は約200件となった。実際の工事を手掛けているパートナーは地域建設企業で、「Polyuseを中心としたエコシステムが構築されつつある」と説明する。
3Dプリンターの魅力は、単なる新技術という話題性にとどまらない。工期の短縮や災害復旧への貢献など、担い手不足が深刻化する中で生産性を向上させる有力な手段として注目されている。
施工者だけではなく、発注者も同様で、石田教授によると、早期の道路啓開、のり面安定が求められる災害復旧の現場では、コストが通常より高くなるケースでも3Dプリンターが採用されるケースもあるという。「以前は施工承認での活用が一般的だったが、最近は設計段階から図面に明記するケースも増えてきた」と最近の変化を語る。
さらに国交省は25年度の新技術導入促進計画で「コンクリート構造物の3Dプリンティング技術」を新たな取り組みとして追加し、さらなる普及を後押ししている。
一方で、石田教授は「国内の3Dプリンター技術は、まだポテンシャルを十分に生かし切れていない」と指摘する。海外では、アーティスティックな橋梁などに応用されており、今後は形状やデザイン面での多様な活用も視野に入る。技術の標準化も重要な課題であるとし、大型発注者や大手ゼネコンを中心に議論が始まっていると明かす。
JR東日本から出向し、今回の指針策定に携わったCalTa(カルタ、東京都港区)の井口重信最高執行責任者(COO)は、「3Dプリンターを安全・安心に使うためには、今回の指針策定は大きな意義がある」と発注者としての視点を強調する。
今後は、積層体特有の異方性の考慮や、具体的な設計式、性能評価方法、品質評価方法など、より定量的な基準整備が課題となる。引き続き、現場での実績を積み重ねながら、指針の改訂を視野に入れた取り組みが進む見通しだ。
石田教授は、新技術の導入は担い手確保にもつながるとし、3Dプリンターを、自身が提唱する3C(Creative、Cool、Challenging)を体現する技術と位置付ける。現場打ち、プレキャストに続く“第3の工法”として、建設業界に新たな風を吹き込もうとしている。
土木学会は8月6日、「建設用3Dプリント埋設型枠を用いたコンクリート構造物の技術指針(案)」に関する講習会を開く。定員は、会場となる東京都千代田区のプラザエフが100人、オンライン視聴が最大500人。申込期間はコンビニエンスストア決済の場合は16日まで、クレジットカード決済の場合は23日まで。
土木学会コンクリート委員会では「建設用3Dプリンタによる埋設型枠設計・施工に関する研究小委員会」(委員長・石田哲也東大教授)を設置し、その成果として『建設用3Dプリント埋設型枠を用いたコンクリート構造物の技術指針(案)』を出版する。今回、出版に合わせて講習会を開くことになった。
参加費は、会員が7000円、非会員は1万円、学生会員は4000円。講習会の司会はJR東日本から出向し、指針策定に携わったCalTa(東京都港区)の井口重信最高執行責任者(COO)が担当する。