大成が大胆な人事制度改革/日本的雇用慣行から脱皮/成果報酬で"とがった"人材評価 | 建設通信新聞Digital

7月18日 金曜日

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大成が大胆な人事制度改革/日本的雇用慣行から脱皮/成果報酬で“とがった”人材評価

大塚人事部長
 大成建設は、24年ぶりに人事制度の全面改定を進めている。1日から、要となる新等級制度の運用も始まった。昇格のたびに何年かたたないと次に進めない「滞留年数制度」を廃止。技術畑の“一匹おおかみ”タイプの社員などに向け、管理能力ではなく、突き抜けた“個人の専門性”を評価し、最高年収2300万円を実現する「スペシャリスト職群」といったコース別人事も新たに設けた。明治時代から連綿と続くスーパーゼネコンが、日本的雇用慣行から抜け出そうとしている。 同社の社員構成は従来、日本人男性が中心で、生え抜き人材が多かった。歴史が培った“昭和色”の強い、同質性の高い職場だった。当然のことながら人事制度もそれに合わせ、在籍年数や経験能力に重点を置いた評価制度としていた。
 この日本型雇用と親和性のある「職能資格等級制度」に近い人事制度で、多様な考えを持つスタッフを適切に評価できるのかという課題意識の高まりとともに、共働き世代の増加に伴い、地域を限定して働きたいといったニーズも増えつつある。働き方の多様性という時代の変化を前に、部分改定では対応が困難と判断し、人事制度の全面改定に踏み切った。
 こうして1日から始まったのが「役割等級制度」だ。等級に対応する業務上の『役割』を明確に定義。これにふさわしい人材を登用する仕組みだ。次等級への滞留年数は最短1年。制度上は毎年“昇進の階段”を駆け上がれる。
 大塚洋志執行役員管理本部人事部長は「役割を定義し、当てはまる人は積極的に昇格させる」と説明する。自己研さんのモチベーションにもつながるため、「若くても、ふさわしい人がいれば適正に評価し、積極的に登用したい」とも。後輩が先輩を追い越すケースも織り込み済みで、「制度上あり得る。それを実践していかなければとも思っている」との認識を示す。
 今回の制度改定では、等級制度に加え、コース別人事の幅も広めた。従来のコースは、総合職、勤務地を限定する専任職、いわゆる一般職に当たる担当職の三つだった。新制度では、総合職と担当職に大きく分け、総合職の下に▽マネジメント職群▽エキスパート職群▽スペシャリスト職群--の3コースを設けた。
 とりわけ目を引くのが「スペシャリスト職群」だ。部下を増やしながらマネジャーを目指す一般的な人事コースとは全くの別ルート。極めて高い専門能力を持つ人材用の特殊な人事コースだ。報酬の基準は、階段を上るような昇級ではなく、『成果』で決まる。最高年収は2300万円だ。
 初運用となった1日。選抜で任用が決まった14人が新制度のテーブルに載った。建築・土木に限らず、AI(人工知能)、水素、マテリアルサイエンスなど分野は多岐にわたる。
 非常に“とがった”専門能力で社業に貢献していても、部下の管理が苦手なばかりに、光が当たらない人材もいる。雇用の流動化が進む中、適切に評価されなければ社員は辞める。こうした危機感もあり、大胆な人事コースを設計した。
 大塚氏は「われわれの世代は、部長や所長などといった組織のトップを志したが、今の働き方はそれだけではない。社員と接する中で『専門性を高めて会社に貢献したい』という人が増えていると感じていた」とし、「ようやくモデルができた。来年度以降も対象者を増やす。若い人がスペシャリストを目指して専門性を磨いてくれれば」と期待を寄せる。
 さらに、「世の中の変化は激しい。今回の制度が完成形とは全く思っていない。必要があれば見直しも行う」と柔軟な構えで、「働き方の選択肢を増やし、その中から『一番良い』と感じるものを探してもらいたい」と引き続き多様性に対応していく方針だ。