経営サイドからの要望をきっかけにBIMの導入に踏み切った17年当初は、設計グループの中から任命された8人が実務をこなしながら試行的に活用してきた。複数のBIMソフトから将来性などを見据えてオートデスクの『Revit』を業務ツールに定め、8人それぞれが自主的に使い方をマスターしてきた。同社には伝統的に業務ツールを所員が独学で取得する文化が根付いていることから、あえて1年間はそれぞれが個別で主体的に取り組み、翌18年からその成果を持ち寄るような形で週1回の勉強会をスタートした。
導入ステージを引き上げたのは19年9月のことだ。BIMコンサルティング会社のSEEZ(東京都港区)からアドバイスを受け、ロードマップを掲げ、本格運用へと大きくかじを切った。先導役の推進組織「BIM推進室」を発足し、テンプレートやファミリなど導入基盤の整備に着手した。BIM推進室のまとめ役を担う安東由吏江建築設計グループ主任は「経営を巻き込み、社を挙げた活動に発展すべきというSEEZの助言が大きな推進力になった」と振り返る。
20年9月に意匠設計用テンプレートを構築したことを足掛かりに、構造設計用テンプレートも整備した。実現こそしなかったものの、概算コスト用のテンプレートづくりにも挑戦してきた。ファミリも含め一連の基盤整備が完了した24年3月からは設計グループの全員がRevitで設計する流れを整えた。現在の設計グループは意匠10人、構造3人、BIM推進2人の15人体制。これまでBIM推進のステージは「提案活動や設計段階への導入に力を注いできたが、これからは施工段階へのデータ活用に力を注ぐ」と強調する。
安東氏とともにBIM推進を担う高橋朋彦建築設計グループ業務推進グループ課長は、Revitのレンダリングアドオンツール『Twinmotion』を使った動画制作などを担い、受注提案づくりに貢献する中心メンバーの1人だ。24年6月に竣工した延べ約1万3180㎡のポーライト本社工場(埼玉県伊奈町)もBIMデータを活用した動画が施主から高く評価された。「これからもインテリアコーディネーターとの連携でさらなる可能性を模索していく」と先を見据えている。
今年4月からは、BIM推進室の新たなメンバーとして建築事業部東京建築部の千葉渉氏が加わった。施工現場へのBIM導入を後押しする役割として「微力ながらもこれまでの現場経験を生かしたい」と前を向く。同社は2件の稼働中現場を施工BIMのパイロットプロジェクトに位置付け、設計のRevitデータを施工段階で有効に生かす糸口を探る。安東氏は「施工BIMに挑戦していく中で、現場目線からBIMデータ活用を検証できる人材が必要だった」と説明する。
同社は、施工へのBIM導入に踏み切るタイミングに合わせるように、DX戦略を打ち出し、7月から社内の各部門を横断するDX推進チームも発足した。BIM推進室の伊藤、安東、高橋、千葉の4氏もメンバーになり、BIMを軸にしたDX戦略の立案が動き出した。