【再生への道筋は?/完工能力起点の事業管理に】
三井住友建設の建築本部長に就任した濱野哲也氏は、特定の国内大型建築工事に関する工事損失を踏まえ、「建築部門の立て直しが一番の課題だ。それを何とかして次の世代につなげるのが私の役目」と覚悟を示す。同社は規模拡大を優先した受注戦略から、完工能力に応じた事業管理へとかじを切り、持続的成長を図ろうとしている。再生への岐路に立つ今、事業の柱である建築本部の今後の戦略について話を聞いた。 「同業他社が業績回復の波に乗り始めた中で、当社は周回遅れにある」と厳しく受け止める。2022年3月期に損益が悪化した同社だが、手をこまぬいてきたわけではない。「建築の改革プロジェクトを立ち上げ、さまざまな方策を検討してきた」と振り返る。
その一つが完工能力に応じた受注戦略への転換だ。「昨年1年間は受注を抑制し、完工能力の調整を進めてきた」と既に具体化への歩みを進めている段階にあるという。加えて8月末に特定の国内大型建築工事が一部追加工事はあるものの完成し、一つの区切りを迎えた。
同工事に多くの人員を投入してきたが、今後は各支店に戻す段階となる。その際には工夫を凝らす。「稼ぐ力や案件獲得力を重視しつつ、内勤体制の充実を図る再配置を行う」と強調する。
これは24年度からの時間外労働の罰則付上限規制を踏まえた取り組みでもあるが、「現場の負担を減らし、現場力や原価競争力を高めたい」と狙いを語る。具体的には支店単位ではなく、九州支店の案件を大坂支店が支援するなどブロック単位で全社横断の人員再配置の最適化を推し進める考えを示す。
今後の受注戦略は、地域ごとの特色に応じた柔軟な戦略を掲げる。「例えば北海道であれば、今はインバウンド(訪日外国人客)が旺盛であるため、そこを狙っていく」と前を向く。「首都圏は当面、住宅が中心」としつつも、「将来的には住宅を全体の2、3割に抑え、都市型データセンターなど新分野の受注拡大に挑む」と意欲を示す。
インフロニア・ホールディングス(HD)による、三井住友建設への買収については、「デベロッパー案件では重複もあるが、住宅以外の一般建築ではほとんど重ならない。受注機会はむしろ広がる」と前向きに捉える。技術面では「当社は現場で実装可能な技術を洗い出している。先進的なインフロニアHDのDX(デジタルトランスフォーメーション)の知見を取り入れれば大きなシナジーが期待できる」と語る。
こうしたタイミングを捉え、人員の有効活用にも着手する。「社員の経験・能力を整理したリストを作成し、誰もが閲覧できるようにしたい。差配者が変わっても確実に情報が伝わる体制を築く」という。また、協力会社組織である真栄会ともさらなる連携を模索する。過去の取引実績などを基にデータ分析し、新たな関係構築の糸口とする。
「現場には稼ぐ面白さがある」と言い切る。自身が知るその魅力を次世代に伝えることこそが、再生の分岐点に立つ同社の未来を切り開く道だと信じている。
* *
(はまの・てつや)1986年3月九大工学部建築学科卒。91年9月三井建設(現三井住友建設)入社。2013年4月中部支店建築部長、19年4月中部支店副支店長兼建築部長、21年10月建築本部本部次長、23年4月執行役員建築本部副本部長兼工事技術部門統括兼建築統括室長、24年4月執行役員横浜支店長を経て、25年4月から現職。趣味は旅行。埼玉県出身。63年2月10日生まれ、62歳。
三井住友建設の建築本部長に就任した濱野哲也氏は、特定の国内大型建築工事に関する工事損失を踏まえ、「建築部門の立て直しが一番の課題だ。それを何とかして次の世代につなげるのが私の役目」と覚悟を示す。同社は規模拡大を優先した受注戦略から、完工能力に応じた事業管理へとかじを切り、持続的成長を図ろうとしている。再生への岐路に立つ今、事業の柱である建築本部の今後の戦略について話を聞いた。 「同業他社が業績回復の波に乗り始めた中で、当社は周回遅れにある」と厳しく受け止める。2022年3月期に損益が悪化した同社だが、手をこまぬいてきたわけではない。「建築の改革プロジェクトを立ち上げ、さまざまな方策を検討してきた」と振り返る。
その一つが完工能力に応じた受注戦略への転換だ。「昨年1年間は受注を抑制し、完工能力の調整を進めてきた」と既に具体化への歩みを進めている段階にあるという。加えて8月末に特定の国内大型建築工事が一部追加工事はあるものの完成し、一つの区切りを迎えた。
同工事に多くの人員を投入してきたが、今後は各支店に戻す段階となる。その際には工夫を凝らす。「稼ぐ力や案件獲得力を重視しつつ、内勤体制の充実を図る再配置を行う」と強調する。
これは24年度からの時間外労働の罰則付上限規制を踏まえた取り組みでもあるが、「現場の負担を減らし、現場力や原価競争力を高めたい」と狙いを語る。具体的には支店単位ではなく、九州支店の案件を大坂支店が支援するなどブロック単位で全社横断の人員再配置の最適化を推し進める考えを示す。
今後の受注戦略は、地域ごとの特色に応じた柔軟な戦略を掲げる。「例えば北海道であれば、今はインバウンド(訪日外国人客)が旺盛であるため、そこを狙っていく」と前を向く。「首都圏は当面、住宅が中心」としつつも、「将来的には住宅を全体の2、3割に抑え、都市型データセンターなど新分野の受注拡大に挑む」と意欲を示す。
インフロニア・ホールディングス(HD)による、三井住友建設への買収については、「デベロッパー案件では重複もあるが、住宅以外の一般建築ではほとんど重ならない。受注機会はむしろ広がる」と前向きに捉える。技術面では「当社は現場で実装可能な技術を洗い出している。先進的なインフロニアHDのDX(デジタルトランスフォーメーション)の知見を取り入れれば大きなシナジーが期待できる」と語る。
こうしたタイミングを捉え、人員の有効活用にも着手する。「社員の経験・能力を整理したリストを作成し、誰もが閲覧できるようにしたい。差配者が変わっても確実に情報が伝わる体制を築く」という。また、協力会社組織である真栄会ともさらなる連携を模索する。過去の取引実績などを基にデータ分析し、新たな関係構築の糸口とする。
「現場には稼ぐ面白さがある」と言い切る。自身が知るその魅力を次世代に伝えることこそが、再生の分岐点に立つ同社の未来を切り開く道だと信じている。
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(はまの・てつや)1986年3月九大工学部建築学科卒。91年9月三井建設(現三井住友建設)入社。2013年4月中部支店建築部長、19年4月中部支店副支店長兼建築部長、21年10月建築本部本部次長、23年4月執行役員建築本部副本部長兼工事技術部門統括兼建築統括室長、24年4月執行役員横浜支店長を経て、25年4月から現職。趣味は旅行。埼玉県出身。63年2月10日生まれ、62歳。