「3次元モデルがなければ成立していない」。同社地中線技術部配電土木グループの蝶高志課長は、市中心部で取り組む調査・設計業務について、そう強調する。業務を受注した2021年当時は国土交通省がBIM/CIMの原則適用に向けて積極的に推進していた。民間からの受注が中心の同社だが、経営陣からは将来を見据えてBIM/CIMへの対応を求める声が上がっていた。受注のタイミングとも重なり、このプロジェクトが「初めて本格的に3次元モデルデータ活用に挑む」トライアルプロジェクトになった。
ルートは、電力施設から推進管内を通って電力供給網を構築する長さ約370mにも及ぶ。同社の業務はルート周辺の現況把握に加え、計画トンネルと既設物の干渉や回避、さらにはトンネル内の配管計画など多岐にわたる。既に長さ約120mの1期工事は完了し、現在は残り約250mの2期工事が進行中だ。「業務を進めながら、BIM/CIMツールを使いこなすスキルを身に付けてきた」と強調する。
業務の着手前に取り組んだのは、ツールの選定だった。販売代理店の大塚商会に相談し、いくつかのソフトを比較検証した。社内標準ツールとして使っていた2次元汎用(はんよう)CAD『AutoCAD』との相性を考慮し、最終的にオートデスクが提供するBIM/CIMツールの採用を決めた。「そもそもどのようなツールがあるのかも分からない状態だった。業務内容を踏まえ、大塚商会側からトレーニングの枠組みまで考慮したプランを提示してもらえたことが決め手となった」と振り返る。
導入したのは、土木設計ソフト『Civil 3D』、点群編集ツール『ReCap Pro』、BIMソフト『Revit』、統合ツール『Navisworks』などとなり、多様な業務に対しても柔軟に対応できる最適なラインアップを組んだ。同グループはAutoCADを使って2次元設計を進めた後、3次元データ化する流れで対応しており、設計変更時には2次元図面を修正し、それを再度3次元化している。
電力施設と管路を接続する立ち上げ部分では電力ケーブル1本まで細かくモデリングして収まりの位置や角度を確認。推進管内の配管類は設置作業性を考慮して詳細なモデリングを行うなど、3次元による視覚化効果を最大限に生かした設計を実現している。地上部では点群データを取得し、道路上に立て坑の作業ヤードを構築する際には通行車両から信号機をどの位置に設置すべきかなども3次元で細かく検証した。
業務には蝶氏、平井貴明係長、坂本望美係長の3人で挑んだ。BIM/CIMツールの基礎的な操作を学びながら、それを業務で実践する流れとなり、当初は悪戦苦闘の日々が続いた。しかも他の業務も同時並行で進めてきただけに、3人は「大塚商会のサポートがなければ、ここまで順調には進まなかった」と口をそろえる。