集まりつながることで柔らかく「緩い全体」をつくり、使われ方の可能性を大きく広げていく小屋。建築家の隈研吾氏がデザインした『小屋のワ』は、前面に設けた大きな開口部が内部空間を外に拡張するだけでなく、いくつかの小屋が集まったときにはポリカーボネートの半透明な大 庇 (ひさし)が自然光を取り入れた縁側のような軒下空間を生み出す。
「突然メールがきた」という隈氏がなにより驚いたのが建築確認が不要の「10㎡以内」という依頼内容だ。しかも板金仕事ができない雨天時に工場で製作し、4tトラックでの輸送を前提とするため、高さや幅なども厳しい制約がある。世界中から、とりわけ中国や中東からは「とんでもない巨大な仕事が舞い込んでくる」状況にあって「これは“大きな建築”から“小さな建築”へと向かう時代を象徴するプロジェクトになるのではないか」とひらめいたという。
実際にコラボレーションして「その技術のすごさ」にまた驚いたという。「この精度をこの値段とスピードでできる。この職人の技を世界に見せられたら最高だ」と。
外壁を覆うガルバリウム鋼板には、たがねをたたくことでプリーツ柄のようなパターンを施した。「力の流れを示す応力図のきれいな線を板金職人の手で描く。板金職人の伝統技術を使って構造的な合理性とデザインを融合させることを試みた」とその出来栄えに目を細める。
植田代表も「要求に応えるとさらにハードルが上がる。職人の技を最大限に引き出してもらった。創業42年の板金屋だが、ここまで板金に真剣に向き合った仕事は初めてというくらい苦労して取り組んだ」と語る。
結果として「職人が驚くようなものができた。これを見て板金はこんな面白いことができる仕事なんだと理解してもらえたらうれしい」とも。
「本質は環境とのいい関係をつくること」という隈氏は、このプロジェクトが「小さな建築だけでなく、地方の時代、個人が緩く連携していく新しい時代の象徴になることを期待している」と思いを込める。