【何を残し、何を伝えるか】震災遺構のネットワーク化を目指す 東北整備局ら | 建設通信新聞Digital

4月18日 木曜日

公式ブログ

【何を残し、何を伝えるか】震災遺構のネットワーク化を目指す 東北整備局ら

 東北地方整備局と東日本大震災の被災県などでつくる復興祈念公園等ネットワーク協議会は10月31日、仙台市内の日立システムズホール仙台で「震災伝承シンポジウム」を開いた。発災から7年7カ月余りが経過し、風化が進んでいる中、震災遺構の保存や教訓の伝承などのあり方について討論した。
 市岡綾子日大工学部講師と山本正徳宮古市長、宮城豊彦東北学院大教授、岡本翔馬NPO法人桜ライン311代表理事、今野薫仙台商工会議所専務理事の5人がパネリストを務め、徳山日出男政策研究大学院大教授をアドバイザーに迎えたパネルディスカッションでは『何を残し、何を伝えるか』をテーマに産官学それぞれの立場から意見を出し合った。
 福島県復興祈念公園基本計画検討調査有識者委員会のメンバーでもある市岡氏は、津波に襲われたものの全員が生還した同県浪江町の請戸小学校の現況写真などを紹介し「請戸小には震災当日の緊迫した状態が残っている。これからどのように残していくかを検討することになるが、維持管理のあり方も同時に考えなければならない」と話した。
 山本氏は、津波の脅威を伝えるための震災遺構として復興交付金で初めて整備された「たろう観光ホテル」の維持管理費が全国からの寄付金でまかなわれていることを紹介。さらに「三陸沿岸地域で整備が進んでいる復興道路・復興支援道路やフェリー航路といった交通インフラ、たろう観光ホテルなどの資源を使いながら多くの人たちが津波を実感できる土台をつくっていきたい」と述べた。
 震災遺構となった同ホテルを訪れた経験がある宮城氏は「まさに百聞は一見にしかずと思った」との感想を語りつつ「ホテル1カ所だけでなく、あちらこちらに震災遺構があり、それらをネットワークしていくことが重要だ」と指摘した。
 岩手県陸前高田市で、震災の記憶を残そうと、津波到達地点にサクラの苗を植えるプロジェクトを展開している岡本氏は「震災を経験した世代が主体的に語り継ぐことが重要だが、自然減で少なくなっていく。桜ラインではプロジェクトに共感した全国の人たちと一緒に取り組んでいる」と紹介した。
 被災地と全国の企業との間に入って遊休機械の無償マッチングや販路拡大などに携わってきた今野氏は「震災後に立ち上がりが早かった企業の多くは、異業種とのネットワークを持っていた」と指摘。その上で「地域ごとのBCP(事業継続計画)をつくり、補完し合う仕組みをつくるべきだ」と提言した。
 震災当時、東北地方整備局長として道路啓開“くしの歯作戦”を始めとする復旧作業の陣頭指揮を執った徳山氏は「震災から7年以上が経過して、ようやく何かを残そう、伝えようというシンポジウムが開けるようになった。東北が震災で得た教訓・経験に世界が注目している。具体的で東北一丸となったネットワーク化の検討に期待したい」と呼び掛けた。
 パネルディスカッションに先立ち、平川新宮城学院女子大学長による『東日本大震災と震災遺構』と題する基調講演があった。この中で平川氏は「震災で受けた多くのダメージを克服し、新しい社会をつくっていくために震災遺構を役立てるべきだ」と強調した。

建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら