“暇”と“集い”を包含する半屋外空間–。teco・金野千恵氏の代名詞とも言えるのが「ロッジア空間」だ。イタリアで生まれたこの半屋外空間「ロッジア」では、一人でボーッと暇をつぶしたり、集まって談笑したりと、皆が思い思いの時間を過ごす。ギャラリー WESTにもロッジアを思わせる半屋外空間が設けられており、思わずたたずみたくなる。ギャラリーでありながら休憩所のようにも思える施設の設計過程をたどった。
ギャラリーという施設の特性上、プレーンな展示空間が求められ、「目的を定めずさまざまな過ごし方ができる、誰もに開かれた居場所をつくることは難しい」と当初は考えていた。
しかし、「敷地中央に屋外展示スペース、その両脇に屋内展示スペースを設け、敷地全体に大屋根をかけることで、万博というお祭りの感覚を皆で共有できる、あらゆる人に開かれたギャラリーをつくれるのではないか」との思いに至った。
この空間に欠かせないのが大屋根だ。鉄骨溝形鋼を連結して自重でたわむようにすることで、柔らかい表情が浮かぶ。100×50mmの汎用材を使ったのは、「特注にするとこの場所が特別なもの、遠い存在になってしまう」との思いがあったためで、事実、親しみやすく、ホッとできる空間に仕上がっている。
万博ならではのこだわりもある。「半年間の会期のために生み出して、撤去するということに違和感を覚えていた」からこそ、時間的広がりを持つ「循環」を大切にしたいと考えた。そこで、廃棄されるパスタや白菜などを加熱・加圧して製作した「ベジタブルコンクリート」(ベジコン)を屋根のルーバーに使用。訪れる人に「暮らしの循環」を肌で感じてもらうことで、身近な問題にもかかわらず、普段忘れられている食品ロスについて考えるきっかけをつくった。
製作過程では、「発色が良いオレンジやにんじん、イチゴの使用も想定していたが、農家から廃棄される時期が確定してからでは建設必要時期に間に合わず、材料として使用することができなかった」ほか、「白菜が原料のベジコンは強度が高い一方で、コーヒーかすのベジコンは材料の強度があまり高くなかった」という発見、「パスタでつくったベジコンがネズミに食べられた」という思わぬトラブルがあるなど、学びの連続だった。
丁寧に材料に向き合ったからこそ、「材料の生産者、作り手の技術を大切に守っていく」ことの必要性を再確認し、「原点回帰できた」と振り返る。
このようにしてできあがったギャラリー WESTは、『春日台センターセンター』をはじめ、金野氏が生み出すほかの作品と同様に、“ここにいて良いんだ”と人々に思わせる空気をまとう。世界各地にあるロッジアもまた同じで、だからこそ、安心して思い思いの時間を過ごせるのだ。どのようにしたらこうしたおおらかな場をつくることができるのか。
その問いに、「建築だけで閉じず、地域の環境や資源を含め、周囲とのつながりを大切にすること」の必要性を指摘する。さらに、「人々にとって何が必要で、既にあるものは何なのかをしっかり見極める」ことも欠かせない。
ただロッジア空間を設けたからといって、人々に愛される建築になるとは限らない。使う人の気持ちを読み解き、考え抜いてつくって初めて、ロッジアという空間が意味を持ち、生きる。金野氏の設計への向き合い方こそ、人々に親しまれ、愛される建築を生み出しているのだろう。