【都市空間のアイデンティティは】素材・デザインから建築家・東利恵氏らが議論 森記念財団 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【都市空間のアイデンティティは】素材・デザインから建築家・東利恵氏らが議論 森記念財団

東京のアイデンティティ継承へ柔軟な発想で語り合った

 森記念財団都市戦略研究所(竹中平蔵所長)は、都市の未来を考える国際会議「イノベーティブ・シティ・フォーラム(ICF)2018」に向けたプレセミナーの第2回を開いた。テーマは「『素材・デザイン』から考えるアイデンティティ継承の柔軟な発想」。都市空間が醸す文化的な魅力や人の営みの質を高めるため、素材やデザインが果たす役割について、建築家の東利恵氏、榊田倫之氏、照明デザイナーの石井リーサ明理氏の3人が議論した。モデレーターは明治大教授、森記念財団理事の市川宏雄氏が務めた。
【素材・デザインの果たす役割を議論】
 グローバル化の進展によって世界の都市が均質化。その中で都市の磁力を保ち続けるためには都市空間の文化的な魅力を高めていく必要があるとの認識からテーマが設定され、素材とデザインの観点で東京のアイデンティティー継承の可能性について意見交換した。
 東氏は「地域から考える空間と時間のデザイン」をテーマに、「星のや東京」(東京・大手町)ほか設計を手がけた全国の星野リゾートのコンセプトなどを紹介した。いずれもその地域のコンテクストを生かす個性ある風景をつくり上げており、他にはないくつろぎ空間が提供されている。同氏は「例えば『星のや竹富島』は集落が残してきたスタイルのマニュアルがあった。それにのっとってリゾートのくつろぎを表現している」と話す。客室には、島民の暮らしに近い「風の道」なども取り入れ、五感に訴える空間になっている。
 榊田氏は、現代美術作家の杉本博司氏と新素材研究所という建築設計事務所を設立して、「古様(いにしえざま)」の素材にこだわった建築に取り組んでいる。「Timeless 素材から考える『時(とき)』」をテーマに「素材から見える時間がある。木は、茶室をつくる道具屋さんや銘木屋さんなどで探して、木に再度価値を与えることにしている。素材の扱い方によって、超越した時間(timeless)や超越した価値(priceless)などが見えてくる。トレンドではなく普遍的な価値といえる」と話した。こうした普遍的な営みが都市や空間に与える影響は大きいのではないかと述べる。
 石井氏は、「外から見た東京の光」をテーマに、パリなど海外から見た東京の照明デザインを語った。都市照明のルーツが中世フランスにあったこと、そして当時の照明の3大要素が秩序・指標・治安だったことをまず紹介。こうした歴史を持つフランスのパリでは現在、「室内を暗くして、エッフェル塔を中心にした夜景を見せるレストランがにぎわいを見せるなど、光という素材を使ってアイデンティティーを確立している具体例がたくさんある。東京も素晴らしい照明デザインが増えてきたが、例えば個性、色味の統一、照明器具の認識、テクノロジー(LEDほか)の不反映などの課題も抱えている。東京は多様性を生かしつつもっともっと良くなっていくと思っている」と述べた。
 この後、3氏が「東京らしさ」を表現していると考える写真を紹介。東氏が自分の育った「塔の家」(東京都渋谷区、父の東孝光氏の設計)、榊田氏が新木場の昭和の風景、石井氏が東京湾の夜景のライトアップ風景をそれぞれ説明した。
 最後に会場参加者の質問などに答える形で、東氏が「日本の古いものをそのままではなく再認識して戦略的に見せることも必要だ」と語った。
 榊田氏は「欧米人は、『シャイン』じゃないものを価値があるととらえない人が多い。でも日本人は(わびさびのように)そこに価値を見出している」と指摘した。石井氏は、「香川県直島町に行く外国人が多いと開く。そこには地域のコンテクストとして、新旧の歴史がうまく混在しているからだと思う。都市は不文律を守ることが大切だ」と話した。
 ICF2018は10月18日から20日まで、東京都港区の六本木アカデミーヒルズで開かれる。都市、ライフスタイル、産業、教育など幅広い分野にわたり、国内外の最先端で活躍する著名な専門家65人が登壇する。