【景観を感じる】京都府井手町新庁舎設計を担当する千葉学氏がプロジェクトに込めた想い | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【景観を感じる】京都府井手町新庁舎設計を担当する千葉学氏がプロジェクトに込めた想い

 京都府井手町は庁舎としての防災拠点機能の強化と行政サービス機能の充実を目的とする移転建て替えを計画中で、ことし1月に「井手町新庁舎等建設基本設計・実施設計業務」の公募型プロポーザルで千葉学建築計画事務所を特定した。提案では「機能が異なる庁舎、ふれあいセンター、休憩施設を独立させつつも、それぞれが絡みあうような配置を意識した」という。現在はその具現化に向けて、着々と設計を進めている。

 千葉氏はこれまでに数々の建築作品を手掛け、多数の受賞歴を誇る。プロポーザルでは、建物規模や特定の用途に対象を限定するのではなく、「当社の特徴や強みを発揮できる案件かどうか」「審査員が信頼に足るメンバーであるか」を重視して参加するかを判断している。今回はこれらの条件に合致するうえ、「町の未来を左右するやり甲斐あるプロジェクト」であることに魅力を感じた。

千葉学氏
撮影・Wu Chia-Jung


 今回のプロポーザルには庁舎設計の経験者から若手スタッフまで幅広く参加してもらい、千葉氏を交えて自由に案を出し合って何度となく議論を重ねた。同社は常々、プロポーザルに積極的に参加しているが「日常業務に追われると事務所のスタッフとゆっくり議論する機会も少なくなってしまう。プロポーザルに向かうことで、その案件について集中的にスタッフと議論できる場となる」と意義を語る。

 現地視察では、奈良時代に公家や歌人などが別荘を構えた地だったこともあり、美しい景観や立派な屋敷が残る町並みは井手町の重要な資産であると感じた一方で、町民が集まる公共空間がないことが課題ではないかと考えたという。実際、千葉氏自身が食事する場所もなかなか見付からないほどだった。

 庁舎は多額の税金を投入して整備するにも関わらず、多くの町民は用事がなければ足を向けず、休日には閉まっている。このせっかくの資産を有効活用する意味で、町民が集まり・交流できるふれあいセンターや道の駅を併設することは意義深い。だからこそこれらの配置については悩み続け、最終的に各機能を独立させながらも絶妙に関係し合うL字型に配置することにした。「ドマ」と「ニワ」という緩く囲われた空間を生み出し、敷地内のどこからでも景観を感じられるように意識している。

敷地内のどこからでも景観を感じられる


 また、各施設はその役割に応じて構造などを変えているのも特徴だ。庁舎はフラットルーフを持つS造3階建て延べ約3400㎡、ふれあいセンターは既存集落と呼応した勾配屋根を持つRC・木造2階建て延べ約1900㎡、道の駅はCLT(直交集成板)を使った木造平屋建て約200㎡としている。

 こうしてまとめた提案はプロポーザルの評価委員会で高く評価され、11者が参加したプロポーザルを見事に勝ち抜いた。「意図をくみ取っていただき、本当にありがたい。提案内容は詰め切れていない部分もあったと思うが、可能性を感じてもらえたのではないか」と振り返る。

 いまは受託した設計業務を進めているが、「業務に着手すると、提案時には把握できなかった細かい条件が次々とわかり、提案の骨格は変えないものの、修正すべき部分は柔軟に対応していく」と語るとともに、「町や関係者の人々の声を聞くことを重視したい。施設が完成した時に喜んでもらえるよう考え続けたい」と抱負を語る。

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