千葉・佐倉市の佐倉整形外科眼科病院 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

隠れた木の力シリーズ

千葉・佐倉市の佐倉整形外科眼科病院

 医療社団法人樹徳会が千葉県佐倉市に建設した木造3階建ての佐倉整形外科眼科病院は、木への愛情を凝縮した施設として、地域に愛されている。草村理佳理事長は開口一番、「心から建てて良かったと思う」とその環境の良さを語る。完成後に木材が利用者の目に触れないというツーバイフォー(2×4)の課題も、草村理事長の木に対する想いとアイデアで克服。室内環境の快適さや就労者の足腰の負担軽減といった肌に感じられる効果とともに、やさしさ、温かさといった定量化できない、木に包まれる空間の効果を患者・就労者にもたらしている。

城下町の佐倉にふさわしい、木造の病院が完成した

木への愛情を凝縮  佐倉整形外科眼科病院 草村理佳理事長

草村理事長

木造に惚れた
 佐倉整形外科眼科病院建て替えのきっかけは、、2019年の「令和元年房総半島台風」だった。RC造で建物自体に問題はなかったが、電気室が地下にあり、浸水で停電間近という事態に陥った。手術や入院の患者を抱える中で、停電のリスクは看過できない。草村理事長は「次の世代に良いものを残さなければ。今のままではだめだ」と移転新築を決めた。周囲の協力があり近隣に移転場所は確保できた。
 建物は、「当然、RC造にしようと思っていた。まさか木造でできるとは思ってもいなかった」という。そんな時に、三井ホームが施工した千葉県柏市の有料老人ホームの上棟式を見学した。想定していた病院と同規模の非住宅建物が木造でできることを知った草村理事長は、すぐに木造にすることを心に決めた。コストも想定の範囲内に収まり、「次の世代に、自然に近い、環境に良い空間を残せるならば」と迷いはなかった。木造との出会いはそれほど草村理事長にインパクトを与えた。
 唯一の不安は、繊細な動きが求められる手指や眼の顕微鏡手術を数多く行う手術室の振動抑制だったが、三井ホームの設計提案で解消できた。

エントランス中央の3層吹き抜けに、病院の象徴となる高さ13mの木を設置した


工夫次第で木の良さ伝わる
 「昔の家には必ず床柱のような象徴的な御柱がある。それを建てたい」と、エントランス中央の3層吹き抜けに、病院の象徴となる高さ13mの木を設置するよう依頼。新月の日に切り出した“新月丸太”とするため、「山の所有者と木こりと一緒に、千葉県の山の中に行って木を選び、新月の日の伐採にも立ち会った」というほど想いを込めた。
 2×4の建物は木造でありながら、防火対策のため木が利用者の目に触れる“あらわし”にできないため、「木の良さを感じられない」というイメージを抱く人も少なからずいる。木造の柔らかさを生かしたカフェのような空間づくりとあわせて、木造建物を象徴する構造材ではない柱の設置という草村理事長のアイデアは結果的に、工夫次第で“あらわし”でなくても木造を肌で感じられることを内外に示すことになった。

良い環境が人を引きつける
 22年11月の開院時に転院した6人の入院患者は、初日から木造の環境の良さを口にしたという。開院から1年以上経過した現在は、「RC造の時と比べて、床のクッション性が全然違う」と強調する。「足腰への負担が全然違う」と従業員が語るとおり、日々院内で働く従業員が違いを強く実感している。患者を呼ぶマイクの音も、「音にノイズを感じず、不快さのない耳当たりの良い音が届く。明らかに以前と違う」という。
 コロナ禍を経験し、換気設備にもこだわった。基準値を大幅に上回る換気量が可能な設備を導入した。
 目に見えない部分にこだわって生み出した環境の良さが、人を引きつける。開院から1年間で、「新規で診察券を作った人は6000人を超え、手術も年間2500件に上った」。増加率は以前の1.5倍に及ぶ。建物が新しくなれば患者は増える傾向にあるものの、それを考慮しても高い増加率で、「本当に感謝しかない。ぜひ、木造で病院を建ててほしい」と笑顔を見せる。

SDGsも一つひとつ
 木造病院の建設に伴って、SDGs(持続可能な開発目標)への意識が高まり、「自然の材料を使いたい」と、内装はしっくい塗装とし、断熱材も再利用素材であるセルロースファイバー(自然インク使用のもの)を採用。防蟻(ぼうぎ)剤も自然素材にこだわった。処方販売するコンタクトレンズのプラスチック容器も、海洋プラスチックごみの防止に配慮して回収して処理するプロジェクトに参加。「できることを一つひとつしている」という。

三井ホーム施設事業本部事業推進室 施設営業推進グループチームマネジャー 大坪浩二

大坪グループマネージャー

振動レベル測定で不安を払拭
 三井ホームは、木造(2×4)で、福祉・介護施設や文教・保育施設、商業施設、事務所など数々の実績を上げてきた。それでも、佐倉整形外科眼科病院のような手術室のある病院を手掛けるのは初めて。厳しい敷地制限がある中で、2階に手術室を設けざるを得なかった。柔らかな空間を生み出せる一方で、振動は木材の弱点の一つ。「床の振動低減と手術室に必要な機器を設置するための構造設計」が最大の課題となった。
 「振動を止める最初の方法は固い材料を使うこと」と、床根太・床梁に集成材を使った。さらに、手術室下部の耐力壁線区画を細かく分割し、手術室直下に柱を設けることで床根太・床梁のスパンをできるだけ短くした。
 それでも実は「上棟まで不安があった」という。不安を払拭するため、現地で隣接道路の車両通行と歩行の振動レベルの測定試験を実施。ISOの手術室の振動基準を大幅にクリアしていた。
 厳しい敷地制限に伴う設計上の工夫は振動対応だけにとどまらない。3階の天井根太と屋根の一部は、2階に手術室がある配置の関係上、直下の壁に荷重をかけられない構造のため、トラスを採用し、それ以外は比較的安価な垂木とした。

木造使用率高く効果大
 木造(2×4)で建設する最大のメリットは「住宅建設時のCO2排出量が約50%程度削減できる」という点だ。特に2×4の場合、「壁を構造材とする関係上、構造の一部の木造化に比べ、木材の使用率が非常に高く、木材の炭素貯蔵量も多い」とする。佐倉整形外科眼科病院の炭素貯蔵量は、延べ約2300㎡に満たない建物1棟で、474tCO2、杉の木1903本分に上る。
 さらに、2×4であれば、一般流通材(2×4規格材=ディメンション・ランバー)を使用するため、「木材調達の問題がない」という利点もある。

木造非住宅のメリットと課題 メドックス取締役 佐藤憲一

佐藤取締役

2×4施工参入のチャンス
佐倉整形外科眼科病院では、設計協力として、特別養護老人ホームや病院などの数多くの木造(2×4)非住宅建築物の設計実績があるメドックスが参加した。同社の佐藤憲一取締役は、 木造(2×4)と非住宅建築物の親和性について「老人ホームは明らかに親和性が高い」という。特に手術室があるような病院については、 「室内環境などで優位性があるものの、プランニング上の難しさがある」とし、対応が可能な物件であれば、「1階をRC造にして2階以上を木造とするハイブリッドも考えられる」という。
 非住宅の建築物はS造やRC造というイメージが強い中で、 木造にはCO2削減・炭素貯蔵といった環境面はもちろん、「空気感、居心地の良さという明らかな居住性の高さ」が強みになる。 環境の良さは、就労者にとっての魅力にもなり、「副次的効果ではあるが、人材採用にも好影響がある」という。
 コスト的にも、「15年ごろまではコスト競争力があったものの、ウッドショックでコストの優位性は若干、低下している」というものの、「2×4木造の病院の場合、減価償却期間が17年で、RC造よりも早く償却できる」という利点はオーナーにとって大きな魅力になる。
 最近の懸念材料は、「建設需要の多さから、2×4の非住宅建築物の施工への参加希望者が少なくなっている」という点だ。規格化されており、地域の中小建設会社でも施工できなくはないが、未経験な領域には二の足を踏みがちだ。一方で、「コンポーネントのネットワークもあり、手を付けやすい領域ではないか。現在はまだ競合が少ない状況のため、実績を積めば強みになる。ビジネスチャンスと見ることもできる」と指摘する。

建築概要
▽名称=佐倉整形外科眼科病院
▽発注者=医療法人社団樹徳会
▽所在地=千葉県佐倉市大崎台3-11-17
▽建物用途=病院(33床)
▽構造=木造(枠組壁工法)耐火木造3階建て
▽敷地面積=2869.25㎡
▽建築面積=848.23㎡
▽延べ床面積=2266.62㎡
▽工期=2021年11月-22年11月
▽設計施工=三井ホーム
▽設計協力=メドックス

2階・オペ室

1階・待合ホール


1F待合ラウンジ(施工中)

1階・待合ラウンジ(施工後)


























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カナダ林産業審議会(COFI)は、ツーバイフォー工法や木質トラス構造、それらに使用されるSPF材など、木造建築に関する普及・啓蒙活動を行っているカナダの非営利団体です。

中・大規模木造建築設計セミナー 東京・大阪で開催(2月27日、28日)。詳しくはウェブで。
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カナダ木材製品全般の普及・促進

ツーバイフォー工法中・大規模木造建築実績者リスト