【情報化社会に新たな幼児教育の場】チームラボアーキテクツが設計「キッズラボ南流山園」 | 建設通信新聞Digital

5月12日 日曜日

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【情報化社会に新たな幼児教育の場】チームラボアーキテクツが設計「キッズラボ南流山園」

 情報化社会の幼児教育の場として、多角形を多用するなどこれまでにない建築空間で構成する保育園が、チームラボアーキテクツ(河田将吾代表)の設計で千葉県流山市に完成、4月に開園した。空間は人に大きな影響を与えるとして、これからの劇的な働き方の変化に対応できるよう幼児期から多様性を肯定でき、空間認識能力が育つ場所を目指している。河田氏は「建築空間は人間がどう過ごしたいかを基につくられるもの」などと話す。

 この保育園は「キッズラボ南流山園」。東京などで保育園を展開するキッズラボが運営している。チームラボアーキテクツは、システム設計やメディアアートなどを手がけるチームラボ(猪子寿之代表)の関連会社で、デジタルテクノロジー、アート、生物学、建築の境界を越え、新たな建築や空間のありようを模索する建築集団だ。

 チームラボアーキテクツがこの保育園で目指したのは情報化社会のための幼児教育の場づくりである。情報化社会は、働き始めてから定年まで同じ仕事・同じ職業を続けるのではなく、職能を変化させながら異なる職能の人々と共同で何かを実現(共創)する必要性があると指摘する。このため、幼児期から多様性を肯定し、多様な人々と共に過ごす体験ができる場所が必要だという。加えて情報化社会で必要な能力の1つとして空間認識能力があるとして、あえて身体が不安定な場所をつくることでその能力を鍛えることを目指している。

 こうして出来上がったのがキッズラボ南流山園だ。河田氏は「空間は人に変化を与えることができる。この保育園で過ごすうちに多様性、空間認識能力が育ってくると思っている」と述べる。

 建物は、吹き抜けで半屋外の中庭(内庭)を取り囲むように配置され、自立した多角形の空間が集まって構成される。木造2階建て延べ497㎡。多角形の空間にはわかりやすい中心がないのでいろいろな場所ができる。このため別々のことをしていても同じ空間を共有できるとしている。すなわち多様性への対応の視点である。

外観。窓の多色が楽しい


 河田氏は「多角形は四角形と違って、無限にさまざまな形ができることから答えがないと言うこともできる。そこに身を置くことで自分自身は答えがなくてもいいんだとわかってくるのではないか。多様な色を使っているのも同じ意味合いだ」と言う。

 完全に外である外庭と、外と内の中間のような内庭をつくったことも多様性を考えた設計だ。外庭で遊んでいるときは外庭と内庭をあいまいにして、内庭で遊ぶ時は室内とあいまいにして遊べる。内庭は室内の部屋とつながっているのでお互いがよく見え、別々のことをしながら共に過ごすという空間になる。

 一方、情報化社会で必要な能力の1つである空間認識能力を育てるために、2階建ての建物の遊び場には平たい場所をほとんど設けていない。それは、同能力が立体的な地面で脳と体を同時に使うことで鍛えられると言われているからだ。内庭の2階の床は凸凹で、真ん中にネットを張った大きな開口部も自由に歩き回れるようにしている。全身を使わないと遊べないような、都市では体験できない立体的な空間だ。

愛らしい寄棟屋根に囲まれた2階の内庭。中央2つの開口部にネットが張られている


 造形的な特徴として、赤い屋根の集まりが愛らしさを生んでいる。典型的な新興住宅地に建つため、周りの建物と違和感のないように寄棟屋根を採用。その屋根も複数集まった形状にしたのは1人で考えるのではなく、みんなで相談しながら考える姿を表現したいと思ったからだという。内庭を取り囲んで人が輪になって相談しているようなデザインになっている。

上空から俯瞰。寄棟屋根は全部形が違うのがわかる


 このほか、園庭には山、砂、水しかなく、みんなで力合わせて遊びを考え、ルールをつくるようにしたこと、1日中遊んだ痕跡が残る砂場を入り口につくったことなどの特徴が挙げられる。

1階の内庭の砂場。1日遊んだ痕跡が残る


 河田氏は「(建築を考えるとき)人間がどう過ごしたいか、人とどういう関係性を持ったらいいかなどがまずあって、だから建築空間はこうあるべきだ、という順序だと思う。内と外がどうつながれば良いかは、内と外でどう過ごせば良いかということの1つの答えだ」と述べる。



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