【BIM2024⑫】乃村工藝社 感動空間の思いつなぐハブ機能 | 建設通信新聞Digital

5月1日 木曜日

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【BIM2024⑫】乃村工藝社 感動空間の思いつなぐハブ機能

「The Arc」は集大成プロジェクト

左から妙中氏、小林氏、杉山氏


 乃村工藝社が「感動空間」の創出に向けてBIMをフル活用している。空間展示の多様化や複雑化が進展する中で、最前線に立つクリエイティブ本部第一デザインセンターの小林敬之デザインディレクターは「より大きな付加価値を顧客に提供できるようになった」とBIMの導入効果を実感している1人だ。2023年5月に竣工した日産自動車の新デザインプレゼンテーションホール『The Arc』は「BIMなしには具現化できなかった集大成のプロジェクト」と強調する。

 同ホールは、湾曲化した24KLEDスクリーンとフルカラー天井スクリーンの映像によって、実物大の自動車モデルを包み込み、リアルとデジタルの境界のない空間を創り出す。世界中のデザイナーがリアルタイムにアイデアを共有する日産自動車にとってのデザイン開発拠点となる。

日産自動車プレゼンテーションホール『The Arc』


 乃村工藝社で内装の基本計画がスタートしたのは21年初秋。小林氏を設計リーダーとして約10人の設計チームを組織した。緻密な3次元対応が設計の条件に設定されていたが、既に17年からオートデスクのBIMソフト『Revit』の導入に踏み切り、社を挙げて成功事例を着実に積み上げてきたこともあり、「最適なメンバーで挑むことができた」と振り返る。

 同社初のBIMプロジェクトを手掛けるなど社内のけん引役であるクリエイティブ本部設計統括部BIM推進部BIM戦略課の妙中将隆課長も中心メンバーとして参加した。「われわれにとってはホール内に巨大な映像装置を作るような挑戦となり、特に複雑な納まりが求められた天井部分では導き出したBIMモデルの答えを、モックアップを作って何度も検証してきた」と説明する。

 ホール空間は壁や天井に一体的な映像を映し出すことから、スクリーンのゆがみやたわみによって、光や影にズレが生じてしまう。特に天井膜ユニットは幅4mに達し、それをテンションで張る仕組みとしたため、最適な梁位置などを設計段階から検証する必要があった。しかもLEDスクリーンには20万個にもおよぶLED照明を設置する。天井の目地位置を変更するたびに、LED照明の配置パターンも変わってくる。

 妙中氏はオートデスクのビジュアルプログラミングツール『Dynamo』を使い、設計に合わせてLED照明を自動配置するツールを自ら作成した。以前にチャペルの内装デザインで2400カ所の光源位置を最適化する自動化ツールを開発した経験が生きた。社内では「私のようにプロジェクトを通してBIMのチャレンジを進める担当者が多く、それが組織の提案力につながっている」と付け加える。

Dynamoで20万個のLED照明の配置パターンを自動化

 同ホールの天井裏は設備ダクトなどが複雑に配置され、しかも天井懐が50cmの場所もある。配管類の最適な納まり検討に加え、点検作業のしやすさを考慮する必要があった。メンバーの一員として参加したBIM戦略課の杉山五朗デザイナーは自身初のBIMプロジェクトでもあった。オートデスクのプロジェクトレビューソフト『Navisworks』を駆使し、「プロジェクト関係者間でイメージを共有しながら緻密な作り込みができた」とBIMの効果を実感した。

 同社では、高度で複雑な空間演出が求められるようなプロジェクトに対し、BIMの導入を明確に位置付けている。今年3月からは最前線のBIM組織をBIM推進部に昇格し、より多くのプロジェクトにかかわれるように体制を強化した。BIMの基礎から実務までを習得する独自の社内教育プログラムも確立しており、組織としての対応力も着実に引き上げている。

 妙中氏は「クリエイティビティの拡張を実現できる点が、当社にとってのBIM導入の大きな効果」と強調する。標準ツールに位置付けるRevitをプラットフォームの中心に置き、モデリングツールと組み合わせながらの作業を進めており、今後は「より最適なBIMワークフローの構築にも乗り出す」と力を込める。

 同ホールは、日産自動車の経営計画の発表の場にもなり、その斬新な空間演出が報道機関を通して広く世の中に発信された。小林氏は常に感動空間の創出を追い求める中で「BIMが施主を含めたプロジェクト関係者の思いをつなぐ“ハブ”として機能するようになった」と手応えを口にする。

Navisworks駆使し緻密な作り込みを共有



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