【BIM2024⑭】大和ハウス工業×MAKE HOUSE×応用技術 日本の「木造BIM」確立へ | 建設通信新聞Digital

5月1日 木曜日

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【BIM2024⑭】大和ハウス工業×MAKE HOUSE×応用技術 日本の「木造BIM」確立へ

検証プロジェクト重ね標準化/木造BooT.oneも開発進行
 大和ハウス工業、MAKE HOUSE、応用技術の3社が連携して「木造BIM」の確立に動き出した。脱酸素社会の実現に向け、非住宅分野でも木造化のニーズが高まりを見せている。「BIMによって木造建築の生産プロセスを明確化したい」との思いが3社の根底にある。大和ハウス工業の宮内尊彰建設DX推進部次長、MAKE HOUSEの今吉義隆代表取締役、応用技術の小西貴裕常務DX事業統括責任者に現在の取り組みとともに木造BIMの目指すべき方向性について聞いた。


――現在の取り組み状況は
 宮内 大和ハウス工業では2024年度から非住宅分野で木造建築への対応を強化しています。建設時におけるCO2排出量の削減に加え、地球環境保護の観点から顧客のニーズが高まっています。戸建住宅事業では27年度を目標に戸建住宅の7割を木造化する計画を立て、会社を挙げて木造対応を推進しています。木造建築のBIM化に向けたプロジェクトチームを発足したほか、MAKE HOUSEと取り組んだ初弾の検証プロジェクトの成果を踏まえ、BIM標準も整えました。
 既に建築事業では、自社開発のBIM支援ツール「D-REX」に加え、応用技術のRevit支援ツール「BooT.one」を全面導入し、BIMワークフローを確立しています。これらの機能強化を進める中で、木造建築に展開できるものは積極的に取り組む予定で、これまで以上に応用技術との連携も深まっていくでしょう。

 今吉 MAKE HOUSEは、木造注文住宅分野で耐震構法「SE構法」を事業展開するエヌ・シー・エヌグループの中で、設計事務所や建設会社へのBIM化支援を展開しています。最近はBIM化に取り組もうとする前向きな企業も増えてきました。ただ、現在の木造住宅では構造計算を行うプロジェクトがほとんどないのが現状です。当社は構造計算データとBIMを連携し、部材加工のプレカット工場にもデータを展開する流れを確立し、設計から加工まで一貫して取り組んでいます。大和ハウス工業と進めるBIM標準化は木造建築分野の生産プロセスそのものを変えるきっかけにもなると期待しています。

 小西 応用技術はMAKE HOUSEと連携する形で「木造BooT.one」の開発に1年ほど前から取り組んでいます。大和ハウス工業とは「BooT.one」の機能拡充を進める中で、木造建築プロジェクトにも展開できるアイデアを新機能として形にしていきたいと考えています。既に「木造BooT.one」向けのテンプレートやファミリを開発しており、今後はそれらの拡充とともに、業務プロセスの部分でも当社のノウハウを生かします。単に木造向けのコンテンツを用意しただけでは成立しません。木造建築の生産プロセスに沿って機能を整えていきます。

――検証プロジェクトの成果は
 宮内 グループ会社の大和ランテックが施工を手掛けた別荘プロジェクト「SANU(サヌ)」を検証プロジェクトとして位置付け、DfMA(製造・組立を考慮した設計)+IC(工業化建築)プロセスを当てはめた場合の効果を検証してきました。
 従来プロセスでは、業務の流れが明確に定まっていないため、設計段階で干渉部分が多くなってしまうほか、数量の透明性が担保されていない状況がありました。次工程への情報の流れが曖昧となり、これが工事費の増加や省人化の障害になっています。BIM化によって意匠、構造、設備のデータ見える化が実現し、それによって数量の算出も可能になりますが、今回のプロジェクトではBIM実行計画を明確に示していなかったこともあり、想定よりも良い結果は出ませんでした。それでも部材の廃棄割合は改善し、従来よりも20%ほどの削減につながりました。
 木造建築は材料調達が対象地域によって異なり、生産スキームのテクニカルな部分だけではなく、地場産木材の調達状況なども考慮しないと全体の最適化には結びつきません。課題はまだ山積していますが、そのベースとなるBIM標準については初弾を完成させており、今後の新たな検証プロジェクトを通じて、BIM標準の確立を進めていきます。

大和ハウス工業は検証プロジェクトでDfMA+ICプロセスを当てはめて課題を抽出


 今吉 BIM標準化のためには、業務プロセスを明確に定めることが前提になります。意匠設計者が全体の計画を行い、構造設計者が構造計画および構造計算をし、施工者と調整の上、構造の詳細が決まります。その情報を基にプレカット工場で製造データをつくって行きます。例えば、現在は端柄材の配置はプレカット工場のCADオペレーターが担っています。端柄材は意匠との連動性が強く、本来であれば意匠設計者が入力するべきものですが、現在はプレカット工場側が意匠設計者に確認しながら位置決めを行っています。
 こうした状況を踏まえると、意匠図を描く段階で、端柄材が自動配置されるようなシステムも効果的だと考えます。このようにしてデータを次工程の作業に有効活用できるようになれば、プレカット工場側も作業手間を大幅に削減できます。BIM化によって前工程の設計側も後工程の加工側にとっても生産性向上を図るために、意匠、構造、加工それぞれの役割分担を整理し、明確化することが前提になります。

 小西 「木造BooT.one」を完成させる上で、大和ハウス工業とMAKE HOUSEが取り組む検証プロジェクトの成果はとても貴重であり、そこから導かれた課題を整理し、「木造BooT.one」の開発に展開していきたいと考えています。「BooT.one」をより効果的に使うためにも、木造建築のBIMワークフローを確立することが重要になります。25年4月からは確認申請で4号特例がなくなり、構造・省エネ関連の図書の提出が始まります。同時にBIM確認申請も動き出します。多くの方に使ってもらえるように、低価格で提供できるようにすることもツール提供側の使命と受け止めています。

――ターゲットは
 宮内 大和ハウス工業では法的にもあまり制約を受けない3階建て以下の店舗や事務所などプロジェクトを対象に考えています。木造化、木質化を加速するため、今年4月に「Future with Wood」準備室を設けるなど、非住宅分野における木造建築プロジェクトも、今後着実に増加してくるでしょう。そのためにも木造BIMのワークフローに沿って実績を積み上げていきます。既に建築事業ではBIMの流れが整っています。当社として木造建築についても生産プロセスを確立したいとBIM化に取り組むことを決めました。

 今吉 MAKE HOUSEでは500~1500㎡の規模で3階建て以下の低層プロジェクトを対象に事業を展開していきたいと考えています。それ以下のプロジェクトは既にSE構法によるBIM化が可能です。他建築面積が500㎡を超えると、構造計算、防火や耐火条件も加わり、設備設計も住宅の比ではなくなり、施工者の業種や数も違ってきます。現時点で500㎡超の木造プロジェクトはおよそ全体の1割ですが、今後さらに拡大することは間違いないでしょう。

 小西 パートナー関係にあるオートデスクの海外ユーザーでは既にいくつかの木造BIMの成功事例があると聞いています。設計の情報をプレカット工場に連携していく専用ツールも開発されているようですが、海外ツールを日本にそのまま展開することは難しく、日本の生産プロセスに合わせたツール開発が前提になります。大和ハウス工業やMAKE HOUSEが取り組む日本独自の木造BIMを全面的に支援することも当社の役割です。

MAKE HOUSEはSE構法の住宅でBIM化支援を展開

――木造BIMの実現性は
 小西 プレカット工場は全国各地にあります。50㎞圏内に存在し、対象地域の流通エリアをカバーしています。木造建築の生産プロセスを整えるだけでなく、供給や調達の体制も見据えて業界としてBIM連携ができるような枠組みを確立することも必要です。それが最終的な木造BIMのゴールと考えています。

 今吉 木造建築では2次元CADが主流ですが、住宅業界では中規模の木造建築にも進出したいとの流れが広がり、あわせてBIM化の動きは今後高まると考えています。BIM標準が確立すれば、業界の発展にも寄与します。地震国である日本の木造技術はレベルが高く、BIM化によって技術の海外展開も夢ではないと考えています。

 宮内 木造建築ではまだ業務の流れが分断され、円滑に情報が流れていないのが状況です。業務を明確化する上でBIM化が有効であると考えています。応用技術とは「D-REX」や「BooT.one」の機能拡充を通じ、木造部分に特化した機能開発を今後進めていきます。BIM標準については今後もMAKE HOUSEと連携していきます。3社がタッグを組み、日本における木造BIMのベースを作っていきたいと考えています。



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