連載・五洋建設・シンガポール 挑戦の軌跡〈2〉 | 建設通信新聞Digital

5月1日 木曜日

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連載・五洋建設・シンガポール 挑戦の軌跡〈2〉

現場の様子
山野総括所長(右)と池田和成工事所長
【ECC&NDCS/医療ニーズ捉え病院建築で存在感/新技術取り入れ高品質実現】
 シンガポールでは海洋土木工事から船出した五洋建設だったが、今や『エスプラネード・シアターズ・オン・ザ・ベイ』『ビボシティ』『アイオン・オーチャード』など同国を代表する建築を多数手掛けている。建築分野の中でも近年伸長著しいのは医療施設だ。同国内の医療ニーズの高まりに合わせて施工実績を積み上げ、直近約15年間では海外企業や日本のスーパーゼネコンを上回り、全体の約半数を五洋建設が手掛けている。
 現在、施工しているエレクティブケアセンター(ECC)とナショナルデンタルセンター(NDCS)の新築工事は、地下4階地上20階建て延べ15万㎡の医療施設だ。契約金額は約806億円(受注当時)。シンガポール総合病院の一部で、ECCは緊急性の低い手術や治療、NDCSは一般歯科治療に加えて教育や先進的な歯科治療装置の導入を行う。約300床のベッドスペースを備え、手術室や歯科診察室、画像診断室、駐車場、キッチン、滅菌供給ユニットなどを設置する。
 施工では、固い地盤での地下工事を効率的に進めるために仮設開口を大きく設け、地下躯体工事を逆打ちで構築するセミトップダウン工法を採用。地下躯体工事を先行し、その後地上躯体工事、設備工事、仕上げ工事へと進む。技術的な取り組みとして、DfMA(製造・組み立てを考慮した設計)を導入している。設備配管・配線ラックなどをユニット化して、事前製作後に現場設置することで施工の効率化を図る。山野義則総括所長は「病院では設備が多く複雑なため、非常に有効だ」とその効果を強調する。
 BIMは設計から建設、維持管理まで活用しているのも、デジタルツイン先進国であるシンガポールならではだ。一般的に外国人が多いBIM技術者の確保が同国内では困難なことから、BIMサービスはインド系の2社に業務を委託している。3次元による可視化だけでなく、病室や外装のモックアップを作成し、設計者や医療関係者による確認も継続的に実施しており、使用する医療関係者が使い勝手のよい高品質な建物の実現に役立てている。
 プロジェクトチームには発注者であるシンガポール保健省(MOH)をはじめ、運営するシンガポール総合病院やプロジェクトマネジャー、現地設計事務所など数多くの関係者が携わる。「シンガポール総合病院内での工事であり、発注者も含めてさまざまな目がある中で施工をするという難しさはある」と率直に話す山野総括所長。しかし、ここでも簡単ではない道へと挑戦する姿勢を見せる。工期順守、予算内施工、高品質の提供、重大災害・病院への影響ゼロといったプロジェクト目標の達成にまい進する。