フィーチャーインタビュー2025・太平洋セメント 田浦 良文社長 | 建設通信新聞Digital

8月27日 水曜日

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フィーチャーインタビュー2025・太平洋セメント 田浦 良文社長

【東南アジアへの輸出に活路/国内工場の稼働維持は使命】

 首都直下地震や南海トラフ地震を見据え、「がれきの処理能力が最も高いのはセメント工場だ。われわれの使命は、工場を止めないことだ」と話す。セメント内需の停滞には、輸出に活路を見いだす。6月には大分県佐伯市に東南アジア向けの混合セメント設備新設を発表。具体的な動きが本格化している。  --2024年度の振り返りを
 「ここ数年、石炭価格の高止まりや、コロナ禍によるサプライチェーンの分断などがあり、22年に国内セメント事業で360億円の営業赤字を計上した。これを踏まえ、セメント1t当たり5000円の価格転嫁を進めてきた。24年度までに、このほとんどを完結できた。24年度決算では、国内・海外セメント事業、非セメント事業がバランスよく数字が上がってきた」
  --4月にスタートした値上げの浸透は
 「2000円の値上げは、多くの方々にご理解いただき、順調に進んでいる。生コン価格も上がっている。年末までに完遂するだろう。業績予想は営業利益で850億円としているが、これはかなり堅いい数字とみている」
  --排出量取引制度は
 「排出量を抑えている上位数十%を基準値とするベンチマーク方式となる。ただ、具体的に何%で線を引くのか、CO21t当たりの価格がどうなるのかは、これからの話となるだけに注視していく」
  --内需減少に対する所感と対応策は
 「試算では、セメント国内需要が2800万tになっても輸出を増やし、既存工場をフル稼働できる」
 「東南アジアへの混合セメントの輸出拡大に向け、石炭火力発電所で発生する石炭灰(フライアッシュ)を混ぜ合わせたセメントの製造・出荷を強化する。既に設備の新設も決めた」
 「昨今の電力ニーズの高まりを考慮すると、現実問題として、石炭火力発電はしばらくは続けざるを得ないだろう。副産物のフライアッシュを処理するニーズに応えながら、混合セメントの輸出を強化すれば、工場の稼働を維持できる」
  --産業維持の方向性は
 「セメント製造には大量の産業廃棄物を活用している。仮に製造量が200万t落ちれば、産廃処理量は100万t減る。需要が下がっているからといって、生産を縮小するわけにはいかない」
  --国土強靱化に向けては
 「東日本大震災の際、われわれは岩手県の大船渡工場で、がれきを110万t処理した。がれきの処理が進み、復旧が始まった。がれき処理と復旧は一体であり、セメントメーカーに課された責任は大きい」
 (たうら・よしふみ)日課は朝風呂。吉田拓郎の『永遠の嘘をついてくれ』を歌う。早朝に「え~いえんの~♪」と聞こえたら、田浦社長宅は近いかもしれない。