クローズアップ・燈のAI技術 建設業を照らす | 建設通信新聞Digital

11月2日 日曜日

企業

クローズアップ・燈のAI技術 建設業を照らす

共同創業者の石川氏
エントランスは和風な装い
新オフィスの広々とした執務エリア
【学才集団が産業課題解く/最新の国際論文をサービスに反映】

 建設業となじみの深い東京大学発のベンチャー企業が存在感を増している。AI(人工知能)を活用した産業特化型サービスを展開する「燈(あかり)」だ。AI分野の国内第一人者である松尾豊東大教授の研究室出身者が立ち上げた企業。既に建設業向けのサービスを多数展開している。決算情報は非公開ながら、社員は設立から足掛け5年で約400人に迫る勢いだ。共同創業者の石川斉彬取締役は、そんな会社を「和風で昭和感がある体育会系組織」と表現する。毎朝のラジオ体操、夕方の行動指針の唱和は欠かさない。「全員が熱狂しながら仕事に取り組んでいる」と胸を張る。 23日、10月に移転した新オフィスに報道陣を集めた石川氏。米メジャーリーグで活躍中の大谷翔平選手を引き合いに出し、「日本国民に希望の光を与えるスタートアップ(新興企業)になっていきたい」と大きく切り出した。
 「平成元(1989)年、世界の時価総額ランキングで、日本企業は上位20社のうち、14社を占めていた。ところが、元号の最後には、GAFAMの時価総額の合計に、日本の全上場企業を合わせても勝てなくなった」
 こうした歴史に触れながら、「かつて世界をけん引していた日本の産業に、テクノロジーという武器を渡したい」と目標を語った。
 建設業向けサービスを中心に始まった事業は、今や製造業にも拡大する。社員数は毎年約2倍のペースで増加。正規雇用として月に10人以上のペースでスタッフが増えている。社員が入りきらず、創業5年弱で四つのオフィスを渡り歩いた。10月に構えた新オフィスは、約3000㎡のワンフロアで、約5倍に面積を増やした。事業拡大への意志は明白だ。
 事業拡大できる背景には、進歩のスピードが早いAI分野で勝負できる機動力の高さがある。
 進化が早いAI分野の学術論文は、世界で毎日公開される。石川氏によると、こうした日進月歩でアップデートする技術領域を、社内に設けた研究開発組織がつぶさに収集。使えると思えば、顧客の課題にすぐに適用を試みる。
 この場面で強みになるのが、エンジニアの大半が東大理系出身者という人員構成だ。多くが最先端のAIを学問として研究してきた面々。学習能力の高さでは、優位性があることは明らかだ。
 「1週間前に発表された国際論文を基に、サービス精度を上げる。こうしたことが可能だ。ここまでやれるベンチャーはいない」と、情報感度の高さ、段違いのスピード感を強調した。
 石川氏は、事業環境について「日本の大手企業は大きな予算を取り、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAIに投資をしている。簡単に解決できる課題はもう少ない。反対に、残っているものは、解決が技術的に難しいものばかりだ。面白いことをやっている」ときっぱり。そうした現状のビジネスモデルを「われわれでないと解けない、産業課題を“解いている”」と、まるで試験に臨むかのような独特な表現で説明した。

【取材後記】
 燈の急成長が意味するのは、『学校の勉強は仕事では通用しない』『社会に出たら勉強は役に立たない』といった言葉に代表される伝統的な仕事観の転換だ。情報の“賞味期限”が短くなったことで、社内独自のルール、ドメスティックな知的資源だけに頼る方法では通用しない。自社の問題を、社外の知的資源で解決する方向へとビジネスの潮目が変わり、学習能力の高いアカデミックな集団が産業界で頭角を現してきた。