連載・危機を好機に 第3次担い手3法(中) | 建設通信新聞Digital

12月16日 火曜日

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連載・危機を好機に 第3次担い手3法(中)

井本氏
【単価から技術の競争へ/人材育てる会社に評価を】
 富山県鉄筋工事業協同組合の井本秀治理事長(旭鉄筋社長)は、中央で進む労務費の基準(標準労務費)の議論の行方をじっと見つめていた。改正法によって到来する変革の波は、組合を挙げて取り組んできた職人の処遇改善を成し遂げ得ると信じているからだ。「単価ではなく技術で競争する構造にしていかなければならない」と語る口ぶりには熱がこもる。
 「職人に手厚く、職人を育てようとする会社が競争に負けて仕事が取れない構造だけは避けなければならない。しっかりしている会社が生き残れる業界にしないと、また値段だけの競争になってしまう」
 技能者を雇用して育成する会社が正当に評価される環境こそが建設産業のあるべき姿だと考える。だからこそ労務費を削る価格競争を打破し、技術力で勝負する競争環境を目指す標準労務費への期待は大きい。
 同組合は率先して標準見積書の活用・普及に取り組んできた。2023年には石川県鉄筋業協同組合、新潟県鉄筋業協同組合、福井県鉄筋協同組合、長野県鉄筋業協会と共同で元請け企業に対して施工単価の引き上げを要請。全国でも先んじた活動は着実に成果を上げてきた。
 一方で依然として法定福利費が別枠計上されない取引もあるなど、それが十分ではないことも痛感している。「毎年のように廃業、倒産している。こんな業界を継がせたくないとなって担い手も不足していく。そういう循環に陥っている」
 県内の鉄筋工の減少に歯止めがかからない。組合員企業35社で働く日本人の鉄筋工は約160人で、このうち50歳以上が半数を占める。5、6年前と比べて働き手は半分になり、外国人材に頼らざるを得ない状況が続いている。「ものすごいスピードで減っている。本当に危機感を抱いている」と率直な思いを吐露する。
 5月に理事長に就任してからも担い手確保に向けた処遇改善が最重要課題であることに変わりはない。「最後のしわ寄せは結局弱いところ、職人にいってしまう」からこそ、その姿勢がぶれることはない。標準労務費の運用開始をまたとない好機と捉えており、「国がこれだけ後押ししている。自分たちの業界内でつぶし合っていては駄目だ。この波にはどうしても乗りたい」と決意を示す。
 近年の猛暑もあり現場の仕事は過酷さを増している。その労苦に見合う報酬と安定した処遇が入職者を確保する近道だと確信する。「給料を上げなければ人はこない。一緒のラインでは間違いなく見捨てられる。他産業と比べて1.5倍程度高いところまで持っていかなければならない」
 技能者に適正な賃金を支払うために、適正な労務費を確保する。標準労務費で志向する商習慣は、他産業に劣らない処遇への足がかりになると強く受け止めている。
 「AI(人工知能)にはできない仕事でしょう?」。現場の最前線でものづくりを担っている自負は強い。「歴史は巡るって言うからさ。また職人さんの世界が脚光を浴びる時代が来るんじゃないかと思っているよ」