【研究所の運営方針は?/挑戦と創造から社会実装】
鹿島の執行役員技術研究所長に栗野治彦氏が就いた。技術革新が加速し社会課題が複雑化する中、研究で終わらせず社会や事業への実装を重んじ、「挑戦と創造を尊ぶ組織文化を育みたい」と力を込める。顧客が言葉にできないニーズまで先取りする「究極の御用聞き」を掲げ、技術立社を支える中核部門のかじ取りを担う栗野氏に、研究所の運営方針と注力分野を聞いた。
--所長としての抱負は
「高度化、複雑化している社会課題を技術で解決し、事業競争力の強化につながる新しい価値を生む技術開発を進めたい。研究成果を現場や事業につなげる社会実装と、次の成長の芽となる新たな技術の創出・育成を両立した組織運営に取り組む」
「キーワードは『挑戦と創造』だ。過去の延長線上では、現代の変化に耐えられず、果敢な挑戦が求められている。一方、必ずしも成果に結び付かなくても過程で得られた学びを評価し、次の挑戦につなげていく創造も大切だ。二つを尊ぶ組織文化を育みたい」
--運営で重視する点は
「正しい問題設定とスピード感だ。ゼネコンの本質的な役割は顧客や社会に対する『究極の御用聞き』と考えている。技術研究所にとっての顧客は、社内の現場や設計部門も含まれる。顧客の言葉をそのまま技術要件にするのではなく、本当の問題はどこにあるかを考え続ける。まだ言語化されていないニーズを技術で翻訳して選択肢として示すことが、われわれの役割だ」
「技術が良くても社会のニーズは、開発ペースに合わせてはくれない。仮に完成度が6割ほどでも勇気を持って実装し、フィードバックの中で磨くなど、サイクルを今まで以上に速く展開したい」
--具体的な注力技術は
「エポックな技術となるのが、防災・減災とサーキュラーエコノミー(循環経済)を両立する『増築制震技術』だ。耐震補強対策で建物の魅力などが損なわれることを避けつつ、用途変更や長寿命化にも対応できる。技研の本館に適用し、実証と発信を兼ねたショーケース化を進めている。工事中の振動もモニタリングし、工事自体の影響度まで顧客に伝えられるように、エビデンスを準備している」
「土木では光ファイバーセンシングや衛星測位による先進的なデータ取得技術でインフラの維持更新を高度化する。スマートビル関係では、シンガポールの拠点で取得したウェルネスなどのデータを国内に還流したい。自動化施工のほか担い手確保や生産性向上、安全といった業界の課題に対しても、現場環境の改善などでしっかり応えていく」
「全てに共通する鍵はAI(人工知能)が握っている。制御や画像処理などあらゆる分野に横断的に活用されている。土木・建築のコア分野とAIやロボット、地球環境など新しい重点分野とのバランスを踏まえた人材構成の強化を進めたい」
--スタートアップ(新興企業)や海外企業などとの連携について
「シンガポールに設けた拠点を中核に、海外プロジェクトでの知見獲得、大学などの海外研究機関との共同研究、スタートアップや異業種との協働を通じて、技術の国際展開と国内への還流を加速させたい」
「現場では即効性のある技術が求められる傾向にあるが、R&D(研究開発)の観点では、連携先の持つポテンシャルを引き出し、新たな価値を共創することが肝要だ。導入候補技術の発展性、拡張性の評価や、相手も気付いていない可能性を引き出す“目利き”の役割を技研が果たす必要がある」
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(くりの・はるひこ)1991年3月東大大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了後、同年4月鹿島入社。2016年2月建築設計本部構造設計統括グループ(先進技術)統括グループリーダー、22年4月同本部プリンシパル・エンジニア、23年4月技術研究所副所長を経て、26年4月から現職。鹿児島県出身。66年8月生まれ、59歳。
