【編成力強化で建築の質向上/海外事業拡大も構想/安井建築設計事務所 佐野吉彦(さの・よしひこ)社長】
安井建築設計事務所の佐野吉彦社長は、直近の業績について「前期(2025年3月期)は増収・増益となり利益率も改善した」と振り返り、「今期はこの延長線上で比較的良好に推移するだろう」と手応えを語る。プロジェクトも活況を呈しており、「データセンターだけでなく多様な生産・製造系施設の需要が活発だ。チャンスは多い」と期待を込める。
一方で「官民ともに、コスト高のためにプロジェクトが遅滞しているのが悩ましい部分だ」と率直に明かす。「施設の大規模化に伴い、社会資本としてのクオリティーを確保しながら工夫を凝らす必要性がこれまで以上に求められている」といい、「設計プロセスの合理化といった先手のマネジメントを講じつつ、事業をいかに軟着陸させるかが重要になる」との認識を示す。
DB(設計施工一括)やECI(施工予定技術者事前協議)など、設計の在り方の多様化に伴い新たな関係者との協働も増えている。「今後はベストなチームをつくる『編成力』や『統括力』が設計者に問われてくる」と見据える。「近年は国内外の業務の境界線が薄れてきた。広い視点を持って多様な主体と共創する能力を強化することが、われわれの生命線である『建築の質向上』につながる」と強調する。
AI(人工知能)については、「自分たちが実現したいビジョンを明確化した上で使うもの」との見解を持つ。さまざまな場面で試行的に導入しており、「今のところ再現性が高くパターン化しやすい倉庫などのプロジェクト、管理部門の業務などはAIによる合理化に適している」と実感している。その半面、「一種のブラックボックスであるAIに判断を委ねることで、プロの技術者として『ものを考えなくなること』は危険だ」と指摘し、「適切にコントロールしなければ、かえって人間の仕事が奪われかねない」と警鐘を鳴らす。「業務報酬への影響などの懸念もある。設計3団体を中心とした建築界全体での議論が必要ではないか」と思量する。
8月には、既設の現地法人や駐在員事務所の機能を集約した新たな現地法人をベトナム・ハノイに構えた。海外展開も着実に進める考えで、「組織体制を見直しながら、まずはベトナム・台湾でしっかり仕事を伸ばしていきたい」と構想を練る。現在は東南アジア全体を視野に置きながらネットワークづくりをしている段階で「契機をうかがいながら徐々に裾野を広げていきたい」と展望する。
改正建築士法の成立を経てさらなる担い手確保に向けた体制整備が進む中、新たに迎える人材は「前向きな人であってほしい」と期待を寄せる。「小さなプロジェクトでも、自信を持って自らのメッセージを世に投げ掛けるエネルギーのある人材を求めている」とし、「そうした経験が面白い仕事や組織・個人のさらなるステップアップにつながっていく」と語る。
建築家の父を持つ佐野社長。「『良い建築をつくることが人の気持ちや動き方に前向きに作用する』というポジティブな姿勢を父から自然と受け継いでいる」と語り、「学生と話をすると、彼らとそうした思いを共有できることを実感する」とほほ笑む。
