類設計室が意匠設計、構造設計、設備設計の統合モデル化に向けたBIMワークフローの構築に乗り出している。オートデスクのBIMソフト『Revit』を使用したトライアルプロジェクトでは実施設計段階の統合モデル化を実現した。次のステップとして最適な枠組みを導き出そうとしている。社内のBIM推進役として中心的な役割を担う監理部の中原裕亮主任は「今年度末までにBIMワークフローを確立し、2025年度末までには統合モデル化を定着させたい」と力を込める。
17年度からBIM導入に舵を切った同社は、当初から意匠設計部門で全面的に導入に踏み切り、18年度からは構造設計部門も続いた。設備設計部門は他のソフトを主体に使ってきたが、今回、統合モデル化に合わせたRevit導入検証を本格的にスタートした。中原氏は「意匠、構造と同じく設備もRevitに統一することでデータ連携の側面でも効果がある」とトライアルプロジェクトの狙いを明かす。トライアルに位置付けたのは、関西学院大学が兵庫県三田市に建設する総延べ1万1500㎡の複合施設だ。学生寮、インキュベーション施設、商業施設の3棟で構成され、類設計室が設計、大林組が施工を担当。25年春の開業を予定している。このうち2階建てで延べ1100㎡のインキュベーション施設をRevitによる統合モデルで取り組んだ。
基本設計から担当してきた設備設計部の名取茉優氏は「設計を進めながらRevitを習得してきたが、以前から3次元設計を進めていただけに違和感なく入ることができ、無事に実施設計まで仕上げることができた」と振り返る。Revitデータを熱流体解析ソフトに連携し、気流シミュレーションで吹き抜けや中庭などの空間最適化も検証してきた。「ここで得た成果や課題をワークフローの枠組みづくりに反映していきたい」と強調する。
BIMワークフローは、既に意匠設計と構造設計で固まっており、設備設計についてはトライアルプロジェクトでの成果を踏まえて最適な枠組みを整備する予定だ。別の案件ではRevit以外の設備系ソフトによるトライアルプロジェクトも進行中。協力事務所との関係性も含め総合的な視点から検証する方針だ。設備業界では大手設備工事会社各社がRevitの導入に舵を切る動きも広がっている。中原氏は「社内でもRevitに統一できれば、意匠、構造、設備の連携効果を最大限に発揮できる。Revitによるトライアルプロジェクトの成果は大きな一歩になる」と見通している。
同社のBIM推進担当は大阪に5人、東京に3人の8人体制。意匠部門を中心に構造や設備の部門も含めた構成となっている。BIM推進担当は全員が設計者として担当する案件の中でBIMによる物件運営の高度化に取り組みながら、部署全体の課題を推進している。17年の発足当初は社内から技術的な相談が中心だったが、最近はワークフローを意識してBIMデータをどう効果的に使うべきかなど、より実践的な問い合わせに変化している。
トライアルプロジェクトで名取氏がRevitでの実績を積んだように「担当プロジェクトを通し、各部署でBIMの推進役が着実に増えている」(中原氏)という。社内では常時6、7件のBIMプロジェクトが動いている。設計提案もBIMデータから作成するなど、同社ではBIMを軸に業務が回り始めている。
研修体制も各部門で整備しており、意匠部門では計20時間の教育プログラムを設定するなど、新入社員を含む20代、30代の社員はRevitを効果的に使いこなす。トライアルプロジェクトを機に設備部門でもRevitの研修が本格的に動き出した。
同社は10年前から「建築総体力」獲得のため、中堅社員に各部門を経験させるローテーション制度を導入している。BIMに取り組み始めた17年当初に意匠担当としてBIMを先頭に立って推進してきた中原氏も対象者の1人だ。「構造部門を経て現在は監理部門に配属されているが、各部門の目線からBIMをどう有効活用すべきかを知るきっかけにもなっている」と説明する。統合モデル化に連動するように、同社のBIMは新たなステージに入ろうとしている。