施工プロセス変革に乗り出す新菱冷熱工業は、施工現場、オフサイト、バックオフィスの密接な連携による工事最適化を進める上で、3拠点をつなぐBIMデータの存在を重要視してきた。3年かけて複数のツールを検証し、2022年10月から標準ツールとしてオートデスクのBIMソフト『Revit』を本格導入することを決め、同時に建設クラウドプラットフォーム『Autodesk Construction Cloud(ACC)』の活用にも踏み切った。
実は、社内では先行して20年から都市環境事業部の生産設計部と企画設計部がRevitの導入に乗り出していた。地域の建物群に熱供給設備の地域冷暖房プラントを整備する同事業部では、工事の元請け企業として活動するケースが多い。企画設計部設計一課の小林正和専任課長は「われわれは配管計装図(P&ID)から詳細図面化しているが、いずれ設計から施工までワンモデルで検証していくことを目指しており、それを実現するツールとしてRevitを選択した」と説明する。
デジタル推進企画部BIM課と連携しながら配管計装図に基づく自動モデリングシステムの開発も進行中だ。Revitによる設計作業は社員10人程度と外部オペレーター10人の計20人体制で取り組んでおり、「ゆくゆくは総合図まで担えるBIM人材を少しでも増やしていきたい」との思いを持っている。
BIM課の酒本晋太郎課長も「今後、社を挙げてRevitの導入を推し進める上で、単に操作スキルだけではなく、現場のことを理解し、施工図まで対応できるBIM人材の育成が急務になる」と考えている。同社新本社ビルで機械設備工事を仕切る現場代理人の前原恵二首都圏事業部技術一部技術三課主査は「施工図に対応できるオペレーターを増やすことで現場の対応力はさらに増す」と、協力会社側のBIM人材対応も重要視している。
社内のBIM教育も本格化している。RevitとACCの操作講習をオリジナル教材で進めているほか、選抜者へのBIMマネジメント教育も準備中だ。新入社員には3週間の施工図教育を位置付け、作成したRevitデータをACC上で共有しながら指摘事項の部分について社員同士でチェックし合う取り組みも展開している。今年の研修では56人が参加し、1700を超える指摘事項が出てきた。講師役を務めるBIM課の八束響主務は「この抽出データを技術講義のメニューにも反映していく」という。
Revitの定着に向け、社内の歯車をいかにかみ合わせるか。デジタル推進企画部の齋藤佳洋部長は「施工プロセス変革の実現には基盤ツールであるRevitとACCの定着が欠かせない。全社に浸透させることがわれわれの重要なミッションである」と力を込める。BIM課が主体となり、ライン部門とBIM推進の課題を議論するディスカッションもスタートした。
着実に進展する同社の施工プロセス変革は、25年9月期が仕上げの年になる。陣頭指揮を執る焼田克彦代表取締役兼副社長執行役員は「導き出した成果のビジネス的な効果を測定し、社内に水平展開していく」と明かす。施工現場、オフサイト、バックオフィスが連携した三位一体の変革は「社の文化や風土の部分にも直結する。まさに意識を変える試みでもある」と強調する。新たな施工プロセスへの道筋を、あえて“改革”でなく“変革”とした部分に、同社の変わろうとする強い決意が込められている。