道路維持管理、除排雪業務などを手掛ける栄建設(北海道岩見沢市、佛田尚史社長)は、レーシングチーム「D.R.C EZO(エゾ)」を設立し、2022年にモータースポーツに参入した。独特の車体デザインがSNS(交流サイト)などで話題を呼び、知名度向上や人材採用にも成果を挙げている。佛田社長は成果に想定外の面もあるとしつつ、「モータースポーツ以外にも、建設業をアピールする材料は埋もれている」とさらなる可能性を見据える。
◇「意外」な親和性、人材採用にも
佛田社長はレーサーライセンスを取得しているモータースポーツ愛好家だが、チームの活動は「サッカーなど他の地域スポーツにも参画しているCSR(企業の社会的責任)の一環」として始めた。道路維持管理の仕事を視覚的にアピールする意図で、道路パトロールカーを模した赤・黄色の車両デザインを採用。走行する姿が反響を呼んだ。
モータースポーツでは、スポンサードで企業名を掲示することにとどまる場合が多く、同社のようなケースは珍しいという。「デザインの意図について、レース会場やユーチューブでのライブ配信の中でアナウンサーなどが紹介する。ライブ配信はおおむね1万-2万人が観戦している。アピールという点で非常にありがたい」と語る。
モータースポーツと建設業は「意外と親和性を感じている」とも。人材採用にもつながっており、「レースから当社に関心を持って入職し、チームでメカニックを担当しつつ冬は除雪車オペレーターとして働いたり、チームでカメラマンを担当しつつ現場の警備部門で働いている」などの例を挙げる。
◇建設業の広告費が売上比で低い
建設業におけるCSR活動の意義について、知名度やイメージの向上を強調する。「建設業が人材確保に苦労する主な理由は知名度不足だ。例えば高校生へのアンケートを見ると、イメージのプラス・マイナス以前に、建設業を知らないし関心もない」と危機感を示す。飜って「建設業は、知名度向上のため投じているコストが相対的に低い。一般論で言うと他産業は売り上げの1-2%ほどを広告費に割く。建設業でその水準の企業は少ない。もっと広告に注力すべきだが、広告費を急に増やすのも難しい」と現状を分析。建設業と親和性のある領域での活動で知名度、イメージの効果的な向上を図る。そうした領域が「モータースポーツ以外にも埋もれている」と見通す。
知名度やイメージを、地域理解につなげることも意識する。「例えば、除雪には地域住民から夜中に騒音を出してうるさいと思われる負のイメージもある。対して、青森空港除雪隊ホワイトインパルスのように“かっこ良さ”を重視したイメージ醸成に取り組む例もある。かっこ良さが地域の理解や関心へのきっかけにもなる」と指摘。レーシングチームと除雪オペレーターが同じチームのように共通のキャップをかぶるなどの取り組みに反映している。
◇想定外の“公団ちゃん”
こうした取り組みには、手探りや想定外のことも多いという。レース参入当初は建設業のアピールを掲げたが「もっと具体的にすべき」とのアドバイスを受け、道路維持管理のアピールと変更した。これにより、レース観戦者がレースと同社の仕事を関連付けてイメージしやすくなった一方、「車体デザインと旧日本道路公団からの連想で“公団ちゃん”という愛称が自然発生した。道路パトロールカーといえば高速道路、と連想する人が多かったようだ。ただ、当社の認識だと道路パトロールカーの働く場は高速道路に限定されておらず、想定外だった」という驚きもあった。
SNSの反響も自然発生的で予測が難しい。「SNSで『日本道路公団の名前はなく、現在はNEXCOだろう』などの疑問が湧いてコメント欄に書き込む利用者がいる。そこに別の利用者が補足を加筆するなどの形で、やりとりが発生する。そうしたやりとりの流れで、当社の参入趣旨を説明してくれる利用者もいて、知名度につながる面もある」と語る。
建設業とSNSについては、「SNSでは利用者から“共感”を得られる話題が広まる。建設業のうち、社会資本を通して多くの人の役に立っている側面が、幅広い利用者層からの共感を得る手がかりになり得る」と期待する。
一方、「建設業」というくくりは抽象度が高く、自然発生的なやりとりが発生しにくい面もある。「共感を得るという観点だと、ビル、ダム、トンネルなど具体的な構造物を中心に発信する必要があるかもしれない」とも提起する。