竹中工務店のビジュアライゼーショングループは東京本店、大阪本店、名古屋支店に配置され、契約社員も含め3拠点で計28人が業務に携わる。受注提案では設計者のスケッチやボリューム検討のスタディーモデルを、オートデスクの3次元グラフィックスソフト『3ds Max』で読み込み、建築CGパースを描くが、受注後にはBIMモデルと連携させてCGパースを仕上げるケースもある。
本多英行設計本部BIM推進グループ長は「BIMとVIZ(ビジュアライゼーション)をつなぐデータ連携は今後実現したいテーマの一つ」と強調する。同社は「設計BIMツールを開発」し、BIMの形状と情報を分けて管理することでBIMを中心とした設計業務効率を向上し、顧客への付加価値提案を高める取組を始めている。形状と情報は、構築中の「建設デジタルプラットフォーム」に蓄積する仕組みだ。「VIZとの連携が可能になれば、蓄積した事例から、より最適な建築CGパースを描く道筋を示すこともできる」と考えている。
大阪本店設計部の本間隆司スペースデザイン部長は「建築CGパースだけでなく、VIZ業務に必要なあらゆる情報をBIMモデルデータから直接連携することができれば、より合理的に業務を進められる」と期待している。BIMデータは設計段階でのデータ活用に加え、施工段階へのデータ活用を軸に設定しているため、その流れの中でVIZの業務に必要なデータをいかに抽出できるかが焦点になる。
BIMとVIZをつなぐためには、リアルタイムにデータを共有することが前提になる。東京本店設計部技術・BIM部門の吉本和功ビジュアライゼーショングループ長は「現時点では最新のBIMデータを待っていたら期日までに仕事を終わらせることが難しい。BIMデータの流れにVIZ業務をつなぐことが重要になり、そうなればわれわれVIZ業務のワークフローも変わってくる」と思いを込める。
あくまでもVIZ担当はBIMデータを作成する立場でないため、常に最新データが更新されるBIMの枠組みを構築することが、VIZ業務に連携するための条件になる。運用を始めた設計BIMツールをより使いやすくするため、オートデスクとの意見交換もスタートした。本多氏は「この協議の中でVIZへのBIMデータ活用についても新たな知見やアイデアをもらいたい」と期待している。
業務領域はCGからVIZに広がり、一方でデータ活用の側面ではBIMとVIZをつなぐことが新たなテーマとして浮上している。吉本氏は「われわれVIZ担当の役割も変化していく。いままでは建築パースを作ることが役割だったが、これからは映像コンテンツにも力を入れ、よりお客さまの近くで仕事をする機会を増やしていきたい」と強調する。
ビジュアライゼーショングループでは業務を展開する中で「ビジュアルコミュニケーション」という概念を使い始めるようになった。本間氏は「われわれは建築プロジェクトの魅力を最大限に可視化する表現者であり、建物特性に応じて伝える内容や表現の仕方も変わってくる。これまでは設計者やお客さまの思いを形にすることが役割の中心だったが、今後はSNS(交流サイト)などを通じてエンドユーザーと直接つながることを強く意識する必要がある」と語る。
デジタル技術の進展に加え、BIMデータ活用の流れが急速に広がる中で、VIZ業務の在り方は転換期を迎え、呼応するようにVIZ担当の役割も大きく変わろうとしている。BIMとVIZのつながりを強く意識し始めた同社は、BIM活用の新たなステージに向けた力強い一歩を踏み出した。