26年春にBIM図面審査開始/合理化に向けた“一里塚”/全国でBIM活用の議論醸成
――建築BIM推進会議の活動を振り返って
松村 19年に発足した建築BIM推進会議は、当初から中核的な検討事項に建築確認のBIM化を位置づけていました。BIMソフトがいくつもあり設計事務所ごとに図面形式も違うため、一朝一夕に実現するのは難しいと感じながら検討を始めました。そのため、部会3では確認申請図面をモデルに落とし込むなど検証を進めてきました。この3年で検討を加速し、専門のタスクフォースの設置や参加団体にも建築確認に活動をぐっと寄せてもらい、ようやく25年度末にBIM図面審査を開始できるところにこぎ着けました。
委員の皆さまには、確認申請においてBIMから切り出した図面で審査できるよう大変な努力をされたと思います。理論上はデータ審査から始めることもできるのですが、これまで図面を審査してきた人がいきなりデータで申請されると本当に審査できるものかどうか不安になると思います。BIM図面審査を先に入れることでBIMに慣れてもらうとともに課題を洗い出せるため、28年度末に予定するBIMデータ審査につながる必要なプロセスだと思います。
宿本 BIMは建築確認だけのために成り立っているのではなく、建築生産システムの合理化が本筋です。審査側にも平立断の図面の整合確認が省力化するメリットがありますが、2次元から3次元に生産工程が変わる中、建築確認がBIMの普及の妨げになって、本来の良さを失わないようにしないといけません。それに合わせて建築確認の基準もうまく置き換えていくことが必要です。建築生産システムの中で建築確認がBIMで合理化されれば万々歳ということではなく、次の生産工程の合理化にもつながります。すると建築士が描く設計図の密度が上がるはずです。建築士は職能でどこまでBIMに対応するか、フィーをどうするかという話になるかもしれません。そういう部分を含めて建設業界や建築生産が変わることが何より期待するところです。
――BIM図面審査が始まるにあたり申請側はどのような心構えでいればいいか
松村 既に多くの人や組織がBIMを導入し、さまざまなデータ活用を進めていると思います。導入している人にとってBIM図面審査はハードルが高くないでしょう。逆に一生懸命BIMで設計に取り組んでも、建築確認のときに図面の提出を求められることは現実として課題でした。BIMの特性を活かした申請が始まることで手続きがによりスムーズになるでしょう。
宿本 この先、BIMデータ審査に向けてどこまで建築確認を合理化できるかがテーマになると思います。いきなり完璧なものを目指すのではなく、できるところから始めたいと思います。設計者にはBIMを使わない人もいるため、それ自体がダメだというのでもありません。建築生産の変化を建築確認側が受け止めつつ、互いに変わっていけばいいと思います。
松村 データで審査すると基本的に業務は自動化されます。図面を見てチェックする従来の組織や習慣で構築された審査体制と、今後のデータを自動処理する審査体制とで、誰が何の責任をとるかといった人間社会との折り合いがついていないため、難しい問題が残されています。図面審査は問題になりませんが、データ審査に向けていろいろな議論が出るのではないでしょうか。
――建築確認でモデル作成基準が示されました。今後のデータ活用の展開は
松村 建物を情報化すると、環境や不動産と関連したサステナビリティの評価などさまざまな使い道ができます。PLATEAUや不動産IDとも結びつきデータの価値が広がることで、個別プロジェクトを超え社会的なデータになっていくと思います。建築主が持つデータの権利はどのように守られるのか議論が必要です。公共的な使い方であれば「ぜひ協力したい」という建築主もいるでしょうから、そうした社会利用に向けたコンセンサスを作ることができればBIMは想像もつかなかったような使い方をできる可能性があり大きなビジネスチャンスにつながります。
宿本 建築行政は規制が中心ですが、データ利用を進めるのは規制の枠組みではなく、BIMの教育、設計や施工の実態を見ながら業界とともに流れを作っていくことが求められると思います。さまざまな声を聞ききながら国が音頭をとり、官民協力体制でBIM活用を進めていくのだと思います。
松村 かつては民間技術開発プロジェクト「パイロットハウス」や「ハウス55プロジェクト」のように、規制ではなく、国が時代を先取りして現物をつくり技術開発を促進する時代もありました。その意味で建築BIM推進会議は、産業全体を後押しするための新しい形態かもしれません。
宿本 建築BIM推進会議ではさまざまな団体のBIMの取り組みが報告されますが、建築確認のスケジュールを示すと各団体がそこを目指します。建築確認はさまざまな活動に関わるため、推進会議の道しるべになっていると思います。
松村 建築確認はBIMを進める上で明確な理由になるため、これなしに会議を進めるのは難しかったと思います。参加団体が途中で離脱する恐れもありましたが、建築確認に向けて皆さんの意見を聞き、それぞれの取り組みを融合させることを目指してきたことが組織運営としてうまくいっていると思います。
――来年3月に向けた意気込みを
宿本 図面審査はBIMによる合理化に向けた“一里塚”だと思います。少しずつでもいいから進んでいき、問題があれば見直しながら、最終的に建築生産システムの合理化の目標に向けてぶれずに進みたいと思います。
松村 全国でBIM図面審査が始まると、今まで活用してない人の関心も高まると思います。自分たちの仕事のプラスになるようなBIMの使い方の議論が全国で始まるのを楽しみにしています。