【BIM2022】建築確認の標準化/ビューワーのプロトタイプによる検証 | 建設通信新聞Digital

4月30日 火曜日

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【BIM2022】建築確認の標準化/ビューワーのプロトタイプによる検証

 産学官で構成する「建築確認におけるBIM活用推進協議会」(会長・松村秀一東京大学大学院特任教授)は、3年目の活動として、建築研究所が開発したBIMビューワープロトタイプを活用し、建築確認におけるBIM活用の有効性を検証した。国土交通省の建築BIM推進会議(部会3)でも各部会と連携し、建築生産プロセスの“要”としてBIM標準化に向けた活動の一翼を担っている。
松村秀一会長、池田靖史東京大学大学院特任教授、武藤正樹建築研究所上席研究員が、“建築確認BIM”の今後を展望した。

左から東京大学大学院特任教授 松村秀一氏、建築研究所上席研究員 武藤正樹氏、東京大学大学院特任教授 池田靖史氏


--BIM活用推進協議会の3年の活動を振り返って
 武藤 BIM活用推進協議会は2019年に発足しました。審査する側、される側の双方が座組みする希有な協議会として活動しています。互いに建築確認審査のBIM活用に強い思いがあり、活動を本格化して3年間、熱量の高い取り組みを続けてきました。最初の2年にBIMの作図に対する知見を固め、並行してビューワーの検討を推進するなどギアチェンジしながら検討を深めています。
 21年度は、クラウドベースのビューワーの動作、モデルに付随する属性情報の入れ方、審査の流れ(機序)、表現方法などを検証し、申請図とBIMモデル、属性情報を使った確認審査が成立することを明らかにしました。本格検討して3年の節目にビューワーを使った審査の合理化に一定の成果を出せたと思います。
 戸建住宅の分野も日本建築士会連合会と連携し、日本で使われる4つのBIMソフトのモデル作成手引書をつくりました。設計に加え、建築確認図書の描き方や手順を明らかにすることで、建築確認のBIM申請の普及に近づいたと思います。確認検査機関にとっての有効性も確認でき、今後は行政庁の建築主事などにも周知を図りたいと思います。

 松村 建築のプロセスの中で“要”になる建築確認業務に関して確実にBIM活用ができ、しかもメリットが十分に出ることを、具体的で詳細なスタディーを通じて明らかにしたところに大きな意味があります。建築確認でBIMモデルが使えないという事態を想像すると、それがBIMの展開や有効性の発揮にとって大きな障壁になることは間違いないことであり、そこが突破できる見通しが立ったことは重要な成果と言えます。

 池田 建築確認のBIM化を、かけ声だけでなく本当にやってみせたことで標準化の推進に大きく貢献したと思います。これからは検査機関や設計事務所にBIM化によるメリットを示すことがドライビングフォースになります。
 BIMの最大の特徴は、モデルデータの調整で全ての図面表現が一緒に変わることにあり、設計だけでなく、施工の場面でも情報伝達に不整合が起きない環境となります。確認申請もこのメリットをどれだけ感じられるかがポイントになるでしょう。BIM化により、複雑な建物でも理解が早く確実になることで審査が迅速に進むはずで、それを前提に新しいデザインに安全に挑戦しやすくなることが、結果的に建築の原点といえるクオリティーの向上に貢献すると考えるべきです。

--BIMの環境整備の今後のポイントは
 武藤 建築確認のBIM化は、BIM普及の推進力となることが期待されます。特に、建築確認がBIM化することは、BIMデータの真正性を担保できる技術が確立したことになります。今後は確認済みBIMデータを活用することで、維持管理における建物の適切な保全や、不動産のプラス評価につなげることができます。
 確認図書は15年の長期保存が義務づけられ、BIM導入の課題とされていて、データの見読性を担保することも必要です。例えばソフトやビューワーがバージョンアップしてもきちんとデータを再現できて、BIMによる建築確認申請が成り立つと思います。

 池田 BIMを前提にした、建築教育の有効性にも注目すべきです。私は4月に東大大学院に籍を移しましたが、2年前から非常勤講師として2年生に初学者向けのデジタルデザインを教えています。東大は1年生で一般教養を学び、2年生の秋期から専門教育が始まります。まだ十分建築の知識のない建築の1年生が最初に学ぶ科目で初期的なデザイン検討にあえてBIMを使う取り組みを進めています。
 その理由の一つは、BIMには建築要素の常識的な構成方法の思想が明確に含まれているからです。例えば、梁とは何かといった基本的な構成を簡単に学ぶことが大切です。BIMモデルには何が梁かという定義が含まれているので、初期の建築教育に適したツールだと言えます。
 一方で、危険なのは、こうした常識的な知識の膨大さと堅苦しさに嫌気がさすことです。初めて泳ぎを学ぶ子供が水を怖がらないようにすることが重要なように、BIMにネガティブな印象を持たれることは避けなければなりません。ところがインターネットなどで公開されるBIMのチュートリアルを見ると、完成した2次元図面を下敷きに、その上を清書してBIMを覚える方法が多いようです。柱芯を決めるところから始まるのですが、実際の建築のごく初期的検討で柱の位置から始める意匠設計者はいません。むしろどこから始めても後から位置変更などが半自動化されることにBIMのメリットがあります。私の授業では、BIMでスタディー模型をつくる感覚で、フリーハンドで床や壁を大胆に描き、だんだんに調整して形にしていく方法を指導します。それにより「BIMで簡単に早くアイデアを試して見れる」というマインドセットをつくろうとしています。

 松村 建築の企画、設計、確認、施工、運用、解体、リユース、リサイクル等々の広がりのある業務の全体にとって、建物モデルがデジタル情報化され、その情報がいつでも活用可能な状態にあることは、社会全体にとって大きな有効性があります。そのことはちょっと想像してみればすぐにわかる程に明らかです。
 そこに発注者も設計者も施工者も維持管理者も資源循環業者もスマホで育ったデジタル世代が次々に入職してくるわけですから、BIMの将来性については改めて問う必要もないでしょう。先ずは、BIMに対する抵抗感をこの業界のすべてから払拭することが大事でしょうし、そのための教育は肝要なテーマです。

--今後の活用推進協議会への期待を教えてください
 武藤 3年間の活動の中で課題が見えてくるとともにデータの取り扱いについてのゴールも見えてきました。今後の3年間で、ビューワーの実装に向け、着実に歩みを進めていきたいと思います。

 池田 協議会の活動でBIM推進の範を示すことができたと思うし、今後も先頭に立つ姿を示すと同時に、BIMに関心があるけど躊躇している人にインセンティブを与える取り組みが協議会でできればいいと考えます。特に確認申請の分野は後ろを走る人たちの背中を押すための仕掛けとして重要になるでしょう。

 松村 まさに実装可能な審査機関、申請者を増やしつつ、必要な技術的な詰めをしっかりしていくこと、そして仲間を増やしていくことに期待したいです。そこには、これまでの建築界になかった新しい情報共有の姿が立ち現れてくるはずです。楽しみです。



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