【column BIM IDEATHON(15)】非競争領域が可能にする業界のイノベーション/情報システムとしてのBIM(2)-業界のイノベーション- | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【column BIM IDEATHON(15)】非競争領域が可能にする業界のイノベーション/情報システムとしてのBIM(2)-業界のイノベーション-

 これまでの連載でCDEやプラットフォーム、分類体系といった建築情報・形式の統一に関して触れ、前回は建築のプロセスとデータを複眼的に捉える必要性について述べた。筆者の所属する設計専従事務所の場合、最終的なアウトプットは設計図書であり、BIMのメリットを引き出すべく「プロセス」全体を考慮した「データ」の作り方にはなっていないのが現況であるが、情報システムとしてのBIMを整備する業界の動きは進んでいる。今回はこれまで連載で述べてきた標準化やシステムへの業界内での状況について述べたい。

◆長期的なデータの保存と利活用
 CAD図面からの脱却に向けて、難しいテーマの1つにデータ保存の問題がある。BIMソフトウェアは毎年新しいバージョンになるため、例えば確認申請の15年の保存期間等、データを長期的に保存する場合、保存データのファイル形式やバージョン管理の問題が発生する。審査機関がソフトウェアの全バージョンを保持するか、ISOに規定されたIFC※やPDFで保存する等の検討が民間検査機関を中心に立ち上げられた「建築確認におけるBIM活用推進協議会」やbSJ※にて行われている。データの長期保存の課題は確認申請だけに留まらないテーマであるため、納品データや施設管理のあり方等、設計・生産プロセス全体での視点も必要になる。
※IFC=Industry Foundation Classes。buildingSMARTが策定しているBIMデータの国際基準で建物ライフサイクル全体をカバーする3次元建物情報モデルのデータ構造やデータファイル形式等が定義されている。IFC4は2013年にISO認証取得。
※bSJ=建築業界全体でソフトウェア間の相互運用性を向上させるため、BIMモデルの構成要素であるオブジェクトのシステム的仕様定義の標準化(IFC)を進める国際的規模の団体(buildingSMART)の日本支部。

◆非オブジェクト情報のデジタル化
 BIMソフトウェアで定義が統一されていないのが確認申請にあるような明示すべき事項だ。道路中心線や延焼の恐れのあるライン等の非オブジェクト情報は標準化されていない。建築確認の将来像としてAI審査があるが、韓国等で検討が進むAI審査は自動事前審査(記述すべきことがデータとして記述されているか否かを自動的に判別)から始まっている。CADでは設計者が道路中心線(線)を描き、道路中心線という情報(文字)を添えるが、線と文字でしかない。一方、情報を持たせることができるBIMにおいて、道路中心線という情報をデジタル化できれば、事前審査(明示すべき事項の有無判断)に利用できる。国内外のBIMソフトウェアごとにそのような日本固有の申請情報の定義を行うことはできないため、IFCデータで規定化する検討をbSJで進めている。

◆各課題の俯瞰的整理/国土交通省
 国土交通省は19年6月に官民一体でBIM活用を推進する「建築BIM推進会議」を立ち上げた。将来BIMが担うと考えられる役割・機能としてData Base、Platform、Processを挙げ、官民が個別に推進していたBIMに関する各検討を整理し、複数の部会が設立するべく検討を進めている。ガイドライン、CDE、分類体系等、本連載でも取り上げてきた課題が検討事項として盛り込まれた。奇しくも本連載の第2回(2018/11/13掲載)で取り上げた非競争領域で議論すべき検討内容が建築BIM推進会議で扱われることになった。

◆業界革新-Industry3.0からIndustry4.0へ
 BIM IDEATHONでIndustry 4.0に触れ、モノからサービスへ移行したことに触れた。車業界、造船業界では既にデータの作り方が変わりつつある。建築BIM推進会議では、建築情報を有効活用するための共通理解やスタンダード(非競争領域)を整備し、各社のビジネスモデル(競争領域)の活性化につなげることを目指す。業界のイノベーション創出のためには、企業や世代をこえた取り組みが重要となるが、特にデジタル・ネイティブと呼ばれる若手の活躍に期待したい。
(日建設計/安井謙介)

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