【column BIM IDEATHON(16)】デジタルが拓く建築の明日/効率化に留まらない社会的意義を求めて | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

公式ブログ

【column BIM IDEATHON(16)】デジタルが拓く建築の明日/効率化に留まらない社会的意義を求めて

 ここまで15回にわたり、「BIM IDEATHON」を起点として、各著者の視点から建築におけるデジタル技術の捉え方や、BIMをはじめとするさまざまな話題を提示してきた。連載の結びに、大きな構想を描きたいと思う。

◆暗黙知をデジタルで形式知化する
 第3回にて、建築の設計・生産プロセスとは「高度な専門業務の連係」であり「設計情報を、各専門業務間で伝達することを通じて現実の建物として作り上げる手順」と定義した。また、第4回にて、設計情報をデジタルデータとして記述する考え方に触れたが、先述の「高度な専門業務」とその「連係」をデジタルで記述することも可能であろう。即ち、各業務を遂行するために経験者・専門家が培ってきた暗黙知を、デジタル技術で記述し形式知化するのである。例えば、第14回で紹介したVPL(Visual Programming Language)の如く、「業務=形式知化した技術知識(ノード)」と「業務間の接続(ワイヤ)」を用いて「業務の連係」を表現するとイメージしてほしい。
 このように記述することで、可視性が高まり、「業務」とその「連係」が客観的かつ定量的に理解され、妥当性の検証に対する透明性の確保にもつながる。
 他方、可視性の観点からは、新しいカタチの「技術の伝承」と捉えることもできるだろう。失われていく熟練技能者の知と技を後世に伝える手段ともなり得る。

◆労働生産性を向上させる
 先に「デジタルで記述」としたが、記述できない業務もある。それこそが、「人が介在するべき」業務であり、一方の記述できる業務は、コンピューターやロボットによる自動化の検討対象となる。従来、人が担ってきた「業務」のうち、幾らかでも自動化/自律化することが、建設産業の労働生産性の向上につながる。この自動化の情報基盤としても、建物情報をデジタルで記述するBIMが大いに貢献する。

◆Society 5.0の実現に向けて
 内閣府が世界に向けて提唱し、経済発展と社会課題の解決の両立を目指す「Society 5.0」。その文脈で語られる「Cyber」を構成する要素の1つとしてBIMを捉えることができる。現実世界の建物を構造化したデジタルデータとして内包し、仮想空間に存在するが、IoTセンサーや屋内測位技術等を通じて現実世界と相互に連携し、融合する。これまで建設業界は、現実空間(=Physical)において、人々の生命、財産、生活を支える社会基盤の構築および維持を担ってきた。今後、仮想空間(=Cyber)における社会基盤の構築および維持においても、われわれが培ってきた知と技が必要とされる。活躍の場は、現実空間はもとより仮想空間へと広がっていくのである。
 その入口が、BIMである。建設業界が「Society 5.0」の実現に正面から貢献するためにも、業界が一丸となって建物情報のデジタル化に取り組むことが必須である。また当連載で強調してきた標準化や共通化、データ共有環境の整備も、そこに繋がるものと捉えたい。そして同時に、各社の「競争領域」をさらに強くする「非競争領域」として、共に知恵を出し合い実現したいと考える。
 わたしたちの連載は、今回でいったんの終止符を打つが、建築とデジタル技術をめぐる思索が世代を超えて広がることを願いつつ、筆を置きたい。
(おわり・日建設計/安井謙介、東京大学生産技術研究所/村井一、大成建設/大越潤、大林組 中嶋潤)

建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら