【column BIM IDEATHON(8)】プロセスイノベーション(2) ~ワークフローのマネジメント~ | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

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【column BIM IDEATHON(8)】プロセスイノベーション(2) ~ワークフローのマネジメント~

 前回は建築のフロントローディング(設計・生産プロセスにおける意思決定の前倒し)を例に、建築分野における生産性向上の可能性について紹介した。今回はこうしたプロセスの変革を導くためのマネジメントの観点から言及を加えたい。

◆ワークフローを再定義する必要性
 手描きや2次元CADを利用した設計・生産プロセスにおいては、建築情報は個別の図面ごとに記述されていたのに対して、BIMを利用した設計・生産プロセスにおいては、建築情報はデータベースとして記述されるため、さまざまな連携や管理が可能になる点がメリットとしてあげられる。一方で、手描きや2次元CADを利用した設計・生産プロセスと比べて、ワークフローや役割区分にも影響を及ぼすため、その再定義が必要な内容もある。
 例えばBIMを用いたフロントローディングにより設計の早期段階から建築・構造・設備の連携した検討が可能になるが、国内の基本設計業務として定められている構造・設備の検討は概要書の作成などに留まっていることなどは一例にあげられるが、業務契約も含めて工夫や見直しが必要になるケースがある。

◆ルールを決める「ひな形」の整備
 こうしたBIMのワークフローや役割区分に対して、プロジェクト関係者間で「ルール」を共有するために、国内外で整備されているひな形をいくつか紹介したい。
 BIMガイドラインは、設計・生産プロセスにおけるBIMの利用のあり方を示したもので、政府や公共機関が共通目標として作成するものや、発注者が個別の経営戦略に基づいて作成するものがある。米国のGSA(連邦政府調達局)が発行しているBIMガイドラインを一例にとると、空間の計画、建物要素の入力方法、FM(Facility Management)への展開など、発注者の具体的な利用目的に沿って前提条件が整理されている。
 英国ではEIR(Employer’s Information Requirement)と呼ばれるプロジェクト個別の発注要件をより詳細にまとめた内容が発注者により作成され、BIMデータの詳細度や契約上の役割などをはじめとした内容が業務契約に先立って提示される。
 これに対して、BIM実行計画書(BIM Execution Plan)は受注者側(設計者・施工者)から個別のプロジェクトにおけるBIMの使い方を定義するもので、受注者の知見を蓄積した業務標準をもとに、契約以前に業務の条件確認書として作成される。前述したBIMガイドラインやEIRと照らし合わせてBIM実行計画書は更新され、発注者と受注者の合意内容として共有される。
 こうした共通ルールの確認プロセスはプロジェクトに携わる関係者の認識共有のために有効であり、既往のワークフローからの変革の過渡期においては、認識のずれを防ぐために重要である。特に国内においてはBIMデータの利用価値の整理が未だに曖昧な状態にあると考えられるため、発注者の目的や、受注者の知見をもとに整備が必要であると考えられる。

◆設計・生産にとどまらないBIM利用
 ところで、諸外国のBIMガイドラインを読み込んでみると、建築の設計・生産にとどまらず、運用や企画に関する内容が多いことに気付く。BIMデータのうち、部屋情報や機器情報などがFMの基礎データとして利用可能であり、ライフサイクルを通した建物運用の合理化や、管理が容易なデジタル台帳としての役割が期待されるためだ。
 また、FMのために必要な情報に関してもBIMガイドラインで標準を定めておくことで、個々のデータの比較・分析が可能になり、新規プロジェクトの企画段階などにおいて、有益なフィードバックとして参照できると考えられる。
 こうしたライフサイクルを通した情報利用による価値創造も、国内において新たなイノベーションが期待される領域ではないだろうか。 (日本設計/村井一)

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