いかにBIM導入に向けた意識を社内に浸透させるか。オートデスクの会合「MEPラウンドテーブル」にはBIM導入に動き始めた設備工事会社12社から32人の担当が参加した。各社ともオートデスクのBIMソフト『Revit』を軸にBIM導入に踏み切るが、思うように社内にBIMが浸透しない悩みを抱えている。それは登壇した先行企業も同じだ。むしろ導入案件を増やしていく中で、意識の二極化がより鮮明になっている課題も浮き彫りになっている。
「トライアルプロジェクトが“打ち上げ花火”にならないように注意している」と、高砂熱学工業の齋藤英範技術本部システム技術統括部担当部長は明かす。重視するのは「Revitを軸としたワークフローに切り替えることで、手軽に業務の効率化などが実現できるように心掛けている」点だ。現場にはRevit活用の説明資料を配布し、業務を細分化して新たなワークフローに落とし込み、従来との違いを明確化して理解を促している。
新菱冷熱工業の酒本晋太郎デジタルトランスフォーメーション推進本部デジタル推進企画部BIM課長は「現場担当者がBIMと向き合う際、目の前の仕事がどれだけ効率化できるかが重要と考えるが、われわれ推進側は全体最適の視点からワークフローを構築しているため、いかに現場の思いも考慮しながら、全てを満足させる流れをつくれるかが問われる」と強調する。
両氏は「意識を変えてもらうためのマインドセットが最重要テーマになる」と口をそろえる。齊藤氏は「当社が施工段階の全面展開に向けて成功事例の共有に力を注いでいるのも、従来との違いを認識してもらい、それぞれの視点からBIM導入の利点や効果を感じてもらいたいからだ」と説明する。設備工事会社各社は生産プロセス全体を通してBIMデータを活用し、最大限の効果を引き出そうと動き出しているだけに、両社と同じようにBIMの導入意識をいかに醸成していくかに注力している。
ラウンドテーブルのパネルディスカッションで登壇したダイダンの大井手太技術本部上席執行役員も「現場の技術者にBIMのメリットを感じてもらうことが先決」と語る。同社はパイロットプロジェクトを定めて段階的にBIM導入を推し進める計画で、2025年度から専門部署としてBIM・ICT推進部を創設し、施工現場で直面する課題に対して、支援する体制を確保した。
中期経営計画でBIMの導入を明確に位置付ける大気社では、各部門で活用しているアプリケーションを統合するBIMプラットフォームを構築している。橘正章執行役員技術本部副本部長兼デジタルイノベーションセンター部長は「仕事をしながら自然とデータがたまっていくように、業務の流れを整えようとしている」と説明する。BIM活用に向けたワーキンググループ(WG)も発足し、海外を除く各拠点から自発的にメンバーを求め、より前向きなWGを形づくる。
新菱冷熱工業の斉藤佳洋デジタルトランスフォーメーション推進本部副本部長デジタル推進企画部長は「全社教育を通じて自主的にBIMに取り組む意識づくりを進めている」と明かし、「BIMに前向きな社員を後押しするような社内の雰囲気づくりも大事なポイント」と強調する。橘氏が「全社員がデジタル対応を前向きに受け止める流れになれば、組織としての大きな力になる」というようにマインドチェンジがBIM導入の原動力になることは間違いない。設備工事会社各社はBIMを出発点にDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の扉を開け、効果的なデータ活用のフェーズへと突き進もうとしている。