【次代を担う建築家、大阪・関西万博に込めた思い】工藤浩平氏/持続を意識、人と人つなぐ | 建設通信新聞Digital

10月5日 日曜日

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【次代を担う建築家、大阪・関西万博に込めた思い】工藤浩平氏/持続を意識、人と人つなぐ

休憩所2


 工藤浩平建築設計事務所の工藤浩平氏は、「“成長”という視点ではなく、“持続”を意識することこそが、人と人とをつなぎ、また、地域固有の風景を残す」とし、“持続する建築”を追求している。自然石のパーゴラが印象的な休憩所2も、根底にはこの考え方がある。

工藤氏


 半年という限られた期間の万博で「持続」というキーワードを考えたときに思いついたのが、自然石の活用だ。自然石にこだわったのは、「大きな時間軸を意識していた。とてつもない長い年月を経てできた石を、さらに何万年も先の未来につなぐ。会場内で使って終わりではなく、私たちの世代の活動を次世代に伝えたい」と考えたためだ。

 会場の夢洲がある大阪湾は、過去の開発により海底に無数のくぼ地が生まれ、それが原因の一つとして生態系の悪化が進んでいるといわれる。このため会期終了後には、そのくぼ地を埋めるために石を使うことで、「地球に戻していく」ことを計画している。

 大島石や小豆島石など4種の瀬戸内の石を使ったのもポイントだ。約400年前、大阪城築造時にも瀬戸内の石が使われていたことから、「大阪城をつくった人たちと同じルートでこの場所に運んでくる」ことで、いま一度、“つくる”ことの意味に思いを巡らせるきっかけをつくった。「建築が消費されている」現状に危機感を覚えているからこそ休憩所2を、つくること、さらには「つくった後どうなっていくかを考える」場所にしたいと考えたのだ。

 今回の施設には挑戦が詰まっている。例えば石をつり上げる過程では「歴史をひもときながらいま何ができるのかを考え、これまで培われてきた橋づくりの技術や石屋の知見、デジタル技術といったものを結集した」と振り返る。設計段階では、4種の石、さらには同じ大きさの石同士が隣り合わないようにプログラミングで配置を決め、現場では、一つひとつ手作業で石をつないでいった。

 こうして出来上がった空間と素材にたくさんの人が触れている様子を見て、「建築の意味を考える機会が生まれていた」と手応えを口にする。

 地元・秋田と東京の2拠点で建築に向き合う工藤氏。少子高齢化に直面して疲弊する地方と、人でにぎわう都心という正反対とも言えるまちづくりに取り組んでいるが、この二つ、「持続させる」という視点は共通するという。これまでの社会は、「こうあるべきだという大きな方針の下でつくられてきた。しかし、それに合わない人たちはこぼれ落ちてしまっていた。それでは本当の意味の“持続”はかなえられない」

 このような問題意識を持つからこそ、「その時々の社会や地域環境に応じて個別対応する方法で建築をつくること」の必要性を強く感じている。そのためには、関わる人と「同じ目線に立ち、話を聞く」ことを大切にするほか、「建築は社会状況に翻弄(ほんろう)されるものだからこそ、変化する社会の考え方に敏感でなければならない」と気を引き締める。こうして初めて、「人と人がつながり、まちが育まれ、文化が生まれていく」というのだ。

 自身の10年先は「いまと変わらず地方のまちづくりを続けていきたい。都市部の開発、さらには万博のような国家プロジェクトにも携わりたいと思っている。世界にも挑戦していきたい」と意欲を示す。さまざまなプロジェクトに向き合ったその先に、「人間の普遍的な部分が見えてくるような気がする」というように、工藤氏のトレードマークとも言える“同じ立場になって聞く”姿勢が、建築の未来を切り開くのではないだろうか。

 

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