【JIA建築家大会】「建築家と土着-グローカルに生きる」をテーマに5つのシンポ | 建設通信新聞Digital

4月20日 土曜日

公式ブログ

【JIA建築家大会】「建築家と土着-グローカルに生きる」をテーマに5つのシンポ

左から原氏、司会の布野修司日大特任教授、山本氏

 日本建築家協会(JIA、六鹿正治会長)のJIA建築家大会2017「四国阿波踊りの国とくしま大会」が「建築家と土着-グローカルに生きる」をテーマに開かれた。サブテーマに掲げた「防災」「環境」「AI(人工知能)」の連続した3つのシンポジウムで建築家を取り巻く今日的な課題を探り、メインシンポジウム「建築家と土着」ではグローバルとローカル両面から普遍的な建築と居住のあり様を提示。最終日に行われた「徳島に“来ている”建築家と、徳島に“いる”建築家」では、7人の若手建築家・都市計画家らが“土着”というテーマに対して、自分なりの答えを導こうと活発な議論を展開した。3日間にわたり行われた大会の中から5つのシンポジウムを紹介する。
 「防災」「環境」「AI」という3つのサブテーマを話し合ったシンポジウムを受けて行われたメインシンポジウム「建築家と土着-グローカルに生きる」では、グローバルな集落研究をライフワークとしている原広司東大名誉教授(原広司+アトリエ・ファイ建築研究所)と、四国というローカルを拠点に設計活動を展開している“土佐派の建築家”山本長水氏(山本長水建築設計事務所)という同い年(81歳)の建築家2人が講演・対談。 地域固有であるはずの伝統的な建物が持つグローバルな共通点を介して、土着とは何かを探った。
 半世紀にわたり高知を拠点に“土佐の家”を発信してきた山本氏は、「多雨多湿の厳しい気候に耐えられる建物が求められる」と独特の気候への配慮を強調。さらに地元のスギの特性や、石灰と発酵させたわらでつくる白みがかった「土佐しっくい」などの自然素材を生かした取り組み、クライアントの気質を含めた土佐の建築風土を紹介した。
 一方、1970年代から世界中の集落を訪れている原氏は、各地の集落にある塔を示し「土から解放されたいという思いは、時代、場所、種族を超えて世界中にみることができる」と、土着的な伝統文化でありながら、万国に共通する“空中庭園”の概念を紹介。地理的には断絶しているものの、世界各地に土着している伝統文化の中には似通ったものがあるとも指摘した。
 その上で、「情報の革命が進む中で均質化が進めば、建築の物語性や意味が失われてしまう。自信を持って物語性を語ってほしい」と、次代を担う建築家たちにエールを送った。
 山本氏も空間の均質化に異議を唱えつつ、「表現に揺らぎは必要だが、人工的な揺らぎでは見透かされる。自然の力を借りてしっかりと応えていくことが大事ではないか」と語った。

シンポジウム1「防災」・建築の質向上とコミュニティー維持

 「日常と非日常のはざま」をテーマとするシンポジウム1「防災」には、岡村眞高知大名誉教授、三井所清典芝浦工大名誉教授、建築家の松本純一郎氏(松本純一郎建築設計事務所)、水野宏氏(水野宏建築事務所)が登壇。平時と災害時の両面に対応するフェイズフリーによる“栄続”への道筋を探った。
 地震地質学を専門とする岡村氏は、たび重なる地震被害を受けて、 「地震の専門家は誰も予測できるとは考えていない。 米国では地震予知をやめている」 と指摘し、事前の防災対策の重要性について訴えた。
 三井所氏は、自然災害を受けた新潟県山古志村や宮城県女川町、奈良県十津川村などで取り組んだコミュニティーの維持を中心とする復興住宅づくりを紹介した。 
 JIA東北支部で先頭に立ち東日本大震災からの復興を支援してきた松本氏は、復興公営住宅の現状と課題を指摘。
 最低限の単価でつくられる中で建築家の創意工夫によって質を高めた取り組みを紹介しつつ、「平時から公営住宅の質を上げることと、コミュニティーの維持・形成がフェイズフリーにつながる」とし、障壁となる制度を変えるための提言も必要だと訴えた。
 水野氏は、熊本地震への対応を踏まえて「建築家として災害に強い建物をつくることに加えて、防災のまちづくりにも積極的にかかわっていく役割がある」と強調した。

シンポジウム2「環境」・心つくるソーシャル・デザインを

 「環境」をテーマとするシンポジウム2では「吉野川と空の里集落」を事例に、建築家の川島範久氏のほか、真田純子東工大准教授、元放射線物理研究者で移住農家の中島靖紀氏らが地域の暮らしと環境性能のあり方などを紹介した。
 これを受けた後半部分では、セルフビルドの自邸でJIA環境建築賞を受賞した建築家の岩崎駿介氏が、横浜市職員時代に携わった都市デザインの経験を振り返り「良い空間・建築は、豊かな人間関係がないと成立しない。形をつくるスペシャル・デザインだけではなく、心をつくるソーシャル・デザインが建築家には求められている」と強調した。
 中村勉氏(中村勉総合計画事務所)も「ハードだけに加担している建築家の活動領域は狭すぎる」と同調。長野県浪合村で実践した村民主体の新しい村づくり計画を振り返り、「外部主導ではなく地域が主体の取り組みを手助けすることが大事だ」と語った。
 東京や沖縄の設計事務所を経て、故郷の徳島に戻った建築家の新居照和氏(新居建築研究所)は、農業や地域との関係、コミュニティーとのかかわりを紹介しつつ「(核家族化で)家族がバラバラになりつつある中でも住宅に希望を見いだす人も多い」とし、気候・風土や生態系など地域の環境に基づく住宅が、家族の心のよりどころとして果たす役割の重要性を紹介した。

シンポジウム3「AI」・心つくるソーシャル・デザインを

 シンポジウム3「AI(人工知能)」では、Arup東京事務所特別顧問で構造家の彦根茂氏と小渕祐介東大大学院准教授が「AIによる建築の未来世界」をテーマに対談した。AIを最適化のテクノロジーとしてとらえ、彦根氏が構造設計分野における最先端の取り組みを紹介。小渕氏は建築生産システムの最適化と人とのかかわり方を求める最先端の研究成果を披露した。
 コンピュテーショナル・デザインでプログラミングや3Dモデリングを駆使してモデルを制作するデジタル・ファブリケーションを研究している小渕氏は機械に比べて座標軸の弱い人が施工する過程で、間違いや誤差などの“揺らぎ”が起きても「コンピューターが常に構造計算を掛けて間違いをその都度修正する。当初は予想しなかった建築の新たな可能性を生み出していく」と、AIがカーナビのようにミスをガイドしていくものづくりの研究成果を紹介した。
 さらに小渕氏は「海外からは日本が最先端に見えるが、コンピューターは活躍していない」と指摘。「BIMの普及が遅れているのは、設計者よりも施工者が建築をよく知っているためだが、こうした時代は長くは続かないだろう」とし、優れた建築技術の伝承とともに、自らの研究課題である「誰でも楽しんでものづくりができる施工技術の確立」を急務に挙げた。彦根氏も「日本は経験豊富な現場所長たちが時間を掛けて調整しているため、手戻りが少ない。海外でそこを解消しているのがBIMだ。熟練工がいない時代に、その空白を埋めるのがAIになるのではないか」と期待を寄せた。

建築と土着2-徳島に“来ている”建築家と、徳島に“いる”建築家・生活者の立場と視点で可能性拓く

次代を担う若手が“土着”とは何かを探った

 次代を担う若手建築家らがメインテーマの“土着”について話し合ったシンポジウム「建築と土着2-徳島に“来ている”建築家と、徳島に“いる”建築家」では、日本建築家協会徳島地域会(JIA徳島)のメンバーや徳島に移住した建築家と、他に拠点を置きつつ徳島で仕事をしている建築家らが、それぞれの地域とのかかわり方を交えながら「現状認識」「建築家の役割」「振る舞い」の観点から建築家と土着の定義を探った。
 口火を切った伊月善彦氏(JIA徳島、moon at.)は「若いころは地域性を建築で表現することに興味がなかった」ものの、牛小屋や集合住宅を変遷した古い木造の建物を大胆にリノベーションした自邸で「初めて意識した」という一方、「その後もビジュアルでの表現などを試みたが、土着とは何かを自問自答してもなかなか答えがでるものではない」と地域に根ざす1人の建築家としての葛藤を語った。
 フランスの建築家ドミニク・ペローの事務所に10年勤務し、帰国後はバングラデシュのサイクロン・シェルターや徳島で古民家再生に携わる前田茂樹氏(大阪工大准教授、ジオグラフィック・デザイン・ラボ)は、「呼ばれたところで最善を尽くす」と地域を問わない姿勢を示しつつも「土着とは地域のなりわいや災害への対策を建築に取り込むことであり、時間軸や生活環境に分断されないインフラのような建築を目指したい」とした。
 徳島県美波町の医療保健センターを設計した鄭仁愉氏(カワグチテイ建築計画)は、竣工までの4年ほど町内と東京に拠点を置いたことを「事務所ごと流浪する旅芸人のような設計スタイル」と紹介。「竣工後も現地にとどまり、よりにぎわいを生む方法を模索した」と、設計者から生活者に立場と視点を変えるという新しい発想を提示した。
 県内唯一の村・佐那河内村に移住した都市計画家の田口太郎徳島大准教授は「おしゃれなローカルライフではなく、地元の人と関係を築き、地域で培われた環境を学び、実践したい」と、地元の消防団に所属するなど土着的な生活を送る。現地では移住希望者と家主とを結ぶ集落受け入れ組織をつくり「潤滑油のような役割」を担っており、「地域に住む人たちの可能性を広げられるのが建築家だ」と建築家の振る舞いが新しい土着をつくり出すことに期待を寄せた。
 徳島県神山町で移住者のための施設などを設計してきた伊藤暁氏(東洋大准教授、伊藤暁建築設計事務所)は「土着的な建物を発見するのではなく、何を見落としているかに目を向けて、地域や住民が必要なものを設計することが大事だと気付いた」と指摘した。
 徳島市出身だが「仕事よりも自然豊かな環境を求めて佐那河内村に移住した」という島津臣志氏(JIA徳島、島津臣志建築設計事務所)は、改修した自宅兼事務所を手始めに「1軒ずつ周囲を耕すこと」で、「施主と毎日顔を合わせる」距離感の仕事を獲得。「建築家としての振る舞いは後からついてくる」と自らの経験を踏まえて語った。
 建築史家の倉方俊輔氏(大阪市立大准教授)は「土着らしい建築を考えてしまいがちだが、期間によらず、地域に身を置き、そこで生活することこそが土着ではないか」と締めくくった。

建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら