【人材確保・育成】担い手は育成は中途から新卒へシフト 建築設計事務所アンケートから | 建設通信新聞Digital

4月19日 金曜日

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【人材確保・育成】担い手は育成は中途から新卒へシフト 建築設計事務所アンケートから

 建築設計界では団塊世代の引退が本格化し、技術者不足が深刻化している。新卒者の多くが大手ゼネコンやハウスメーカーを志望し、特に構造や設備設計は、将来の後継者不足を懸念する声が聞かれる。日刊建設通信新聞社が全国の建築設計事務所に実施したアンケートの中から、人材の確保・育成に関する現状と課題、新たな取り組みをまとめた。
 建築設計の仕事について、経営者からの回答の中には「魅力的でやりがいがある仕事の一方、学生には建築設計事務所における仕事の中身が伝わっていない」(中堅事務所)という声があった。大手事務所では、学生向けにワークプレイス体験会や勉強会、現場見学会など会社の実態を紹介する機会を設けているものの、規模が小さくなればこうした取り組みを実施するのも難しいのが現状だ。採用に当たっては、自社のホームページやハローワーク、転職媒体などを活用しているものの「費用と期待の割に成果は上がっていない」(同)という意見も多い。
 今回のアンケートの中で特徴的だったのは、即戦力となる中途採用から新卒を自前で育てていく方針に切り替えた事務所が多かったことだ。早期離職などにより中途採用者の技量低下を指摘する声もある中、「新卒は大学院修了者が多く、昔に比べてある程度の技術レベルで即戦力として期待できる。3-5年で1人前に育てられる」(中堅事務所)という。大手事務所の中にも「業務によっては、あまり採用していなかった高校・高専卒業予定者を積極的に採用する予定」と、採用枠を拡大し、初心者マークから育てていく考えも広がりつつある。
 社内の教育体制についても「リタイア組を活用して、社内のエデュケーター(教育者)を育てることも必要」(中堅事務所)や「高齢者と若手をそれぞれ採用し、技術力と機動力を補完している。高齢者には若手育成に比重を置いてもらっている」(地方大手事務所)など、実務と教育両面から高齢者を採用し、体系的な教育体制の構築に取り組んでいる事務所もある。
 人材の有効活用という観点から「一般職の女性社員を設計補助員としてCADオペレーターに養成している」(大手事務所)ケースもあり、既存社員のモチベーションを高めると同時に、設計者のクリエーティブな時間を確保することで生産性の向上に努める取り組みもある。
 このほか、「海外の子会社から国内親会社への研修や社内転勤制度を活用して海外技術者を育成している」という海外に拠点を持つグループに加えて、地方に拠点を置く事務所の中にも「ベトナムからナショナルエンジニアとして設計技術者を採用し、2級建築士学科試験に合格した」と海外から人材を求める動きもある。
 新卒を確保する動きを強めるとともに、教育訓練や福利厚生を充実させて、既存所員の待遇を改善し、離職を防止する動きもある。大手事務所では「就業時間の短縮・効率化や多様な就業形態の導入などでワークライフバランスを実現していく」ことで、さまざまな事情を持つ従業員一人ひとりに向き合い、安心して働き続けられる職場環境の構築を目指す。
 離職防止の取り組みでは、「社内教育プログラムを整備拡充することで、会社組織の底上げを図っている」(大手事務所)とともに、しっかりとキャリアパスを示すことで、若手が将来に抱く不安の払拭(ふっしょく)にも努めている。
 また、「初任給の引き上げなど処遇面の見直し」と同時に「従来の確定給付年金に加えて、確定拠出年金をスタートさせた。就業傷害リスクに対応した団体長期所得保障保険の導入も検討している」(大手事務所)と、社員の将来を見据えて福利厚生を充実させる動きもある。

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