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【高橋一平建築事務所 高橋一平氏に聞く】動物が暮らす“遺跡”/霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ

最終更新 | 2026/04/22 10:19

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高橋氏

 自然の中を歩いていると、目の前に動物たちが暮らす遺跡が広がっていた–。そうしたおとぎ話の中にいるような経験ができる場所が、茨城県行方市にある。“人のため”につくられた施設に増築を加えながら「解体」し、“生き物のため”の居場所に変える。そうした思いでつくられた『霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ』は、水の科学館(霞ケ浦資料館)を大規模改修して生まれた動物・自然と出会える施設だ。設計を担った高橋一平建築事務所の高橋一平氏に現地を案内してもらいながら、この施設の魅力に迫った。

開かれた場へ自然に帰す

 霞ケ浦どうぶつとみんなのいえは、PFIのRO(改修・運営)方式で整備され、2024年7月にオープン。高橋一平建築事務所は、行方市による公募型プロポーザルで選定されたMOFF(茨城県石岡市)を代表とするコンソーシアムの構成員として、設計を担当した。

 改修に当たり、増築とともに肝となったのが既存施設の「解体」だ。壁や屋根、階段など、元の建物のあらゆる場所を取り除き、キリンをはじめ、ペンギンやカピバラ、ヤギなど、動物が暮らす“遺跡”をつくり上げた。

有料エリアの歩廊では来場者がキリンに見入る


 この考えに行き着いた背景には、水の科学館の利用者数低迷がある。年々入場者数が減少し、閑散とした展示空間が広がっていた。見向きもされない展示空間を見た高橋氏は「人が使わないと建物は命を失う」という思いを強くしたという。

 人の訪れる場所に生まれ変わらせるためには何が必要なのか。そう考えたとき、「自然へ還元しても良いのではないか」という逆転の発想が浮かび上がってくる。

 人間が使う施設であれば、「廃虚の中へクモの巣が張られ、ハトが進入してくることは時にネガティブなイメージになるかもしれない。しかし、自然生物の場所であれば話は違ってくる。人のためにつくった場所を人のためではない場所に変える。そうすることで、地球上のあらゆる生き物に開かれた“居場所”になるのではないかと感じた」と語る。そこで、建物のあちこちを解体しつつ、増築を施し、自然と密接に結びついた遺跡のような動物の居場所をつくり上げた。

 もちろん人間も、ここでいう“生き物”の中に含まれているからこそ、人間にとって使いづらい部分も取り除いていった。この動物のための解体と人間のための解体の2種類の解体で人間と動物が出会い、近距離で触れ合うという環境が出来上がった。

既存のエントランス。大階段には穴が開けられている


 解体の象徴とも言えるのが、元の施設のエントランス部だ。かつての施設は大階段を上らなければエントランスにたどり着けない、バリアフリーとはほど遠い構造をしていた。

 このため大階段の真ん中に穴を開け、エントランスとしての役割を解体。大階段下にあったデッドスペースは、カピバラが暮らす“洞窟”に姿を変えた。人間が上る必要のなくなった階段は、高いところに登るのを好むヤギの格好の遊び場にもなっている。

 ここで一つの疑問が生まれる。エントランスがなくなった新施設のエントランスはどこにあるのか。その答えが、施設をくねくねと取り囲む「歩廊」だと高橋氏は言う。

 この歩廊は増築部分で、有料入場者向けエリアと誰もが無料で利用できるエリアがある。既存施設と同じコンクリート製にすることで、最初からこの地に存在していたかのような印象を与える。無料の歩廊は、近隣に住む人やバスを待つ人が散歩したり、霞ヶ浦をぼんやり眺めたりする光景が見られるなど、地域の散歩道や公園のような役割を担っている。

 「歩廊はエントランスホールである」というのは、どこからでもこの施設との接点が持てるということを表しているのだ。

既存の歴史認め乗り越える

アーチ屋根の下の無料エリア。来場者や地域住民、学生らがくつろぐ


 解体に話を戻すと、アーチ状の屋根が印象的な建物もその対象の一つ。既存の壁を取り払い、屋根がかかっただけの外部空間に刷新した。この空間の2階部分は当時展示スペースになっていたが、人はまばらだった。使われる空間にするため、外に開き、植栽を整え、誰もが自由に憩える空間に生まれ変わらせた。椅子やテーブルが置かれた空間は無料で利用でき、カフェや物販施設も備え、施設来場者や近隣住民、学生など、たくさんの人でにぎわう。人間だけでなく、鳥が巣をつくるなど、動物にとっても安心できる居場所となっている。

既存建物を活用した屋内スペース


 解体は破壊行為でもあるが、この「破壊」とともに、有効な部分を“残す”ことも不可欠だった。ナマケモノやマーラ、リクガメなどと触れ合える室内空間は、外とのつながりを強めるため壁をガラスパネルに取り替えている部分もあるが、大部分の形が残る。

 今回のプロジェクトのように、改修というのは、「まず増築を加えることにより既存建物のたたずまいを変え、既存建物においては全てを壊すのではなく、余剰部分を極限まで剥ぎ取る」ということが大切で、その改修の在り方が、「建物の内と外との関係性を変え、建物を生き返らせることにつながる」と高橋氏は思いを語る。

 続けて、今回のプロジェクトを振り返りながら、「一度つくったからには、建物は長く使われた方が良い。“遺す”ためには、時間とともに陳腐化した部分をそぎ取っていく作業が必要だ。それは、既存建物を否定し全てを壊すということではなく、その歴史を認めながらも、乗り越えていくということだと思う」と指摘する。さらに、「増えすぎた建築=シェルターをどのように生かしていくかを考えたとき、自然に帰すという手もある」と実感を込める。

 オープンから徐々に口コミが広がり、世代を問わず多くの人が訪れる施設に育った霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ。25年度JIA日本建築大賞や26年日本建築学会賞(作品)に選ばれるなど、新たな改修の在り方を提示した存在としても注目を集めている。今回のプロジェクトが示したものは決して小さくない。

既存建物の大階段の跡が見える


 概要
▽事業者=霞ケ浦ふれあいランド
▽設計監理=高橋一平建築事務所
▽施工=オカベ
▽所在地=茨城県行方市玉造甲1234
▽開業=2024年7月

 

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