近年の気候変動に伴い都市の暑熱環境やヒートアイランド現象が深刻化する中で、東京建物が東京・大手町に整備した“本物の森”が地表面温度の抑制効果やウェルビーイングの向上をもたらすとして注目を集めている。同社が2014年5月に全体竣工した超高層複合ビル「大手町タワー」の敷地全体の約3分の1を占める約3600㎡に設けた「大手町の森」だ。生物多様性の保全などの観点からも評価が高まっている。
同社は、“本物の森”に必要な疎密・異齢・混交の三つの要素を大手町で再現するため、「プレフォレスト工法」を採用した。千葉県君津市の山林に、土の起伏や土壌の成分、樹木の密度や種類などを、計画地と同じように整備し、約3年間をかけて施工方法や植物の育成、管理方法を検証した。君津市で育成した土壌や植物を大手町に移植し、本物の森を再現した。
完成後、年を追って猛暑が深刻化し、25年の熱中症の救急搬送人員は、統計開始の08年以降最多となる10万人を超えた。今年4月には気象庁が最高気温40度以上の日を酷暑日と定めるなど、暑熱対策の重要性が増している。
そこで、同社は森林研究・整備機構森林総合研究所と共同で、都市緑地が人びとのウェルビーイングに与える影響を科学的に検証する研究を実施し、同時に温熱環境を測定した。その結果、地表面温度の抑制や樹冠による日射遮蔽(しゃへい)、樹木の蒸散作用による冷却効果が発現し、森の内部は周辺の歩道に比べて熱中症リスクが低い環境であると分かった。
森の内部と歩道のそれぞれの気温や風向、熱中症指数を計測した結果、正午ごろの森の内部は、周辺歩道に比べて3度以上涼しいことを確認。気温に影響を及ぼす地表面温度は、地表面の素材や空間の構成によって変化した。例えば、地表面が落ち葉や草で覆われたり、樹冠で日影が形成されたりすると、地表面温度の上昇が抑えられた。こうした効果により、熱中症リスクの指標となる暑さ指数(WBGT)値の上昇も抑制され、変動も比較的小さかった。
大手町の森は、忙しい都市生活を送るビジネスパーソンに安らぎや憩いの場を提供するとともに、生態系ネットワークの形成にも寄与する。レッドリストに掲載される希少種も含め、植物類208種、昆虫類129種、鳥類13種が見られ、多様な生物の移動拠点としての役割を担う。
こうした取り組みが評価され、23年に自然共生サイトの認定を受けた。25年には優良緑地確保計画認定制度(TSUNAG)に認定されたほか、第6回グリーンインフラ大賞の国土交通大臣賞も受賞している。
同社は、測定で得たデータや検証結果を基に、緑地整備の重要性を積極的に発信する構えだ。担当者は、「今後のビルの開発は、占有部ではなく、ビルそのものにウェルビーイングな空間を作る流れになる。緑地を積極的に採り入れたい」と見据える。

