【日本とチェコ交流の輪も】レーモンドの故郷・クラドノ市から名誉市民賞 土屋重文氏 | 建設通信新聞Digital

5月8日 水曜日

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【日本とチェコ交流の輪も】レーモンドの故郷・クラドノ市から名誉市民賞 土屋重文氏

麻布笄町(現東京都港区西麻布3丁目)にあったレーモンドの自邸兼事務所のリビングルーム部分を現・代々木の事務所5階に移築したメモリアルルームには、10年にクラドノ市の名誉市民となったレーモンドと今回の土屋氏の証書、トロフィーが並置されている

 師であり「人生の恩人」とまで慕う建築家アントニン・レーモンドの故郷であるチェコ・クラドノ市から10月26日に名誉市民賞が授与された。チェコの学生を対象とした設計コンペの審査で現地を訪れていたが、事前の通知もなく「まったくのサプライズだった」という。
 それ以上に「うれしかった」と語るのが、レーモンドの命日であるその日を「市が『レーモンドの日』に制定した」ことだ。興味のある人だけでなく、「子どもたちにも広く知ってもらうことができる」と相好を崩す。
 祖国では長く忘れられた存在だったこの偉大な建築家が“再発見”されるきっかけとなったのが2006年。現地の学芸員が資料集めに苦心しながらも小さな教会で展示会を開いたことを知り、「何かの役に立てば」と段ボール2箱分の資料を送った。
 これが市による正式な展示会開催へとつながり、生家跡地には生誕記念プレートも設置された。その除幕式に招かれ、「レーモンドを知る人が建築関係者でもほとんど皆無だったことに驚いた」。そこで設計哲学や人間像を伝えると、顕彰しようという動きがさらに広がり、熱を帯びていった。その全員がボランティアであり、10年来の付き合いとなる副市長とは「親戚関係のような感じ」だと笑う。「言葉は通じないが心が通じる友だちが数多くできた。それがまたうれしい」とも。
 学生の設計コンペも当時の市長が発案し、11年から隔年開催しており、今回で4回目。最優秀者には「A・レーモンド賞」を授与し、翌年春の「桜の季節」にレーモンド設計事務所で2週間のインターンシップとして受け入れている。日本の学生との交流の輪も広がっているという。
 いまクラドノ市に「レーモンド記念ホールを造ろう」という構想も動き出した。寄付を募るアイデアとともに古い穀物倉庫の改修プランも提示。ゆくゆくは「レーモンド基金のような組織で持続的な交流活動につなげていければ」と思い描く。

レーモンド設計事務所顧問・土屋重文氏

 1970年から73年まで、レーモンドの日本における最晩年の3年間を「アトリエ・レーモンド」の一員として共に過ごし、その薫陶を受けた。「一生懸命に生きようとしている人に対しては温かい手を差し伸べる。あれほど優しく心の広い人はいない」。ただし「装えない、本当に無垢な人で説明が苦手だから誤解される」のだとも。
 それは「ここに来てみて初めて分かる。なにか居心地が良くて帰りたくなくなる」というレーモンド作品にも通底するものであり、空間体験を通じてその精神性を日本の、チェコの若い学生たちに伝えたいと念じている。

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