【記者座談会】2017年を総括! 大転換期への備え 広がる自覚と覚悟 | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

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【記者座談会】2017年を総括! 大転換期への備え 広がる自覚と覚悟

 地方建設企業の多くが注目する公共工事が目立って減少しているわけでもなく、国内経済に影響を与えるような政治の不安定化や先行き不安を決定付ける、何かがあるわけでもない。まして建設業界は、大手や準大手を筆頭に過去最高益を更新するケースも多い。ピラミッドにも例えられる産業構造の重層化は、売り上げと利益でもトリクルダウン(したたり落ちる影響)の好循環の恩恵を少なからず受けている。ただ一方で、日本を代表する複数の製造業の安全・品質管理体制の問題が発覚、建設業界は改めてコンプライアンス(法令順守)に向き合うことになった。2017年はどんな年だったのか。

相次ぐ施策 業界別・規模別 募る不安払拭へ先手

A 2017年はこれまでの生産性向上、担い手確保・育成、i―Constructionのほか、『建設産業政策2017+10』もまとまった。施策の打ち出しが相次いでいるように見える。

産業政策論議として、未来を展望した中小企業や専門工事業への支援が焦点となったのもめずらしい


B もともと『産業政策2017+10』とは、法制度や中小企業などいくつかのキーワードに沿って今後、議論し打ち出していかなければならない施策をキーワードごとに詰め込んだもので、ドラえもんのポケットのようなものだ。
C 建設産業界が直面する大きな課題が仮に1つであったとしても、その課題解決へのアプローチは、設計・コンサルタント、ゼネコン、設備、専門工事業、メーカーなどの業界ごとや、大手・準大手・中堅・中小・零細といった企業規模でも違う。
D その意味で、政府と国土交通省が来年度の成長戦略や今年度補正予算に、i―Conで中小企業向け支援本格化を明確に打ち出したことは非常に大きい。もともとITスキルが乏しく高齢化が進んでいる中小企業が、ビジネスモデルとしては一部で確立された3次元データを使ったICT工事などを自らのモノとして取り込むことは難しい。
E 外注を続けていたのでは、生産性向上が身につかないということか。政府施策が中小企業重視に、より舵(かじ)を切っているということは理解できる。なぜなら、政府が建設業を含む中小・零細企業最大の問題だった「事業承継」に10年間限定とはいえ集中的支援を打ち出したからだ。
 現在も受け継いだ株式にかかる相続税や贈与税の納税猶予割合が8割あるが、今後は10割に拡大し事業承継時の支払い負担をゼロにする。そのほかの要件も緩和するほか、設備投資で固定資産税最大ゼロの軽減措置も導入する。
F なにより、いまの建設業に求められているIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータ、ロボットなどを活用した生産性向上への取り組みに、高齢の経営者がついて行けるのは非常にまれなケースだ。さらにICT化に理解を示す経営者の息子がいたとしても、事業承継で発生する税負担に嫌気をさして、黒字経営の状態で廃業するケースが問題視されてきた。
A ここまでの話だと17年は中小企業支援が鮮明だったと言えるけど。
B ある意味で正解かもしれないが、いまの政府と国交省はきちんとバランスを取っている。例えば、元請・下請関係の課題については、専門工事業者の評価制度検討や、職人そのものの評価のあり方まで進んでいる。AIやビッグデータに代表されるさまざまな技術革新を進めるなかで、建設キャリアアップシステムが稼働した場合、現場管理や職人評価と処遇向上などさまざまな可能性が生まれる。
 政府と国交省がバランスを取っているもので最も大きなものは、高速道路整備に1.5兆円の財政投融資を使うことだ。中小建設業向けには生産性向上支援を全面的に全国各地で展開していく一方、経済効果が整備してすぐ表れる大都市圏環状道路の未整備区間や耐震化、4車線化なども同時に行うことができる。
D 一言だけ付け加えると、政府と国交省は中小企業支援を強力に打ち出していることは評価するけど、それだけ地方の中小建設業を取り巻く環境が厳しいということは認識すべきだ。i―ConやICT工事への取り組み、建設キャリアアップシステムへの理解は言うに及ばず、今後建設業にも義務付けられる時間外労働規制を筆頭にした働き方改革や生産性向上について「そんなことできるわけがない」という本音と不安が中小建設業界を覆っていることは事実だ。
A それを分かっているから、国交省は今後の業界・企業規模別不安を払拭するために、先手を打っているのかもしれない。

建設市場 ロット拡大、地方中小工事減少

A 2017年だけでなく近年の建設市場は公共・民間、土木・建築のいずれにしても市場規模は堅調に推移している。
B 確かに金額的には、受注額、公共工事の市場規模を表す請負額、先行きも示す手持ち工事残高にしても高い水準を維持している。しかし、地域や企業規模の格差はかなり拡大していると言わざるを得ない。
 手持ち工事残高は、大手・準大手企業を筆頭に積み増し続け、「早く山(手持ち工事残高)を崩さなければ次に進めない」(ゼネコントップ)状況だ。施工体制を厳密に精査して工事着手しなければ、安全・品質管理に問題が生じたり生産システムの一部に障害が出て採算が急速に悪化しかねないことを過去の轍(てつ)としているからだ。
C 例えば政府も公共工事統計として使っている、前払保証会社3社の16年度公共工事前払金保証統計を見ると、請負金額は前年度比4.1%増の14兆5394億円余。12年度が12兆3819億円余だから4年間で2兆円以上増加している。だからといって増加分がまんべんなく地域に配分されているわけじゃない。
D 当然と言えば当然だけど、東日本大震災の被災県への投資は継続的に続いている。特にこれまで原発被害で復旧・復興への取り組みが遅れていた福島県への公共工事投資は請負額で8578億円。規模的には大阪府と京都府の合算合計額より若干多い。
E その指摘は理解できるけど、一方で近年の公共投資の地域格差は大きすぎる気がするのも事実だ。代表例が東京で、16年度計は1兆5898億円。これがどの程度の水準かというと、愛知・三重・静岡・岐阜・長野・山梨の中部地区や、大阪・兵庫・奈良・和歌山・京都・滋賀の近畿地区のいずれの合計額も東京だけで上回っている。
G 感情論は別にして、首都圏の状況が地方中小企業に影響を与えているのも事実。今年度の官公需予算総額は工事で2247億円、うち国土交通省分だけでも1351億円の減少だ。目標率は前年度と同じでも中小・零細企業向け工事が今年度減少することは確実だろう。
H 先ほど相次ぐ施策のなかで、今年度補正や来年度予算で中小企業向けに支援打ち出しの話があったけど、中小向け市場減少の揺り戻しも支援強化の1つしてあるかもしれない。
J 地域格差拡大の話に戻すと、20年東京五輪へ向けた関連施設整備やホテル、商業・物流施設、都心での大規模再開発などで、建設業界が持っていた手持ち工事残高の山(繁忙期)が今後大きく崩れそうだね。
A それはなにを理由にしているの。
J あるゼネコンは18年の関西地区の仕事をあえてせずに、有力な協力会加盟の専門工事業に対し、「来年は東京で仕事をしてほしい」と要請したという。東京にも当然、関西企業と同じ職種の専門工事業は多いけど、品質と仕事の効率性が腕のいい職人とそうでない職人で大きく分かれるらしい。
A まさに地域の専門工事業も東京での集中工事の山崩しによって選択を迫られているということか。
K 地方の専門工事業だって、全国ゼネコンとだけ取引をしているわけじゃない。全国ゼネコンのうち、どこかとさらに強い取引関係を構築するのか、それよりも地元重視で地元元請けとの関係を強化するのか、はたまた取引企業数は一定程度保ち受注激減リスクを回避するのか、選択の分かれ道にあるとも言える。

首都圏で積み上がった元請けの手持ち工事高の山も今後大きく崩れようとしている

担い手確保 アンバランスな年齢層

A 建設産業界の話題として外せない1つが、担い手確保・育成の取り組みだ。
B 個人的には、東京都大田区が仲介して地元建設業団体と地元職人労働組合が協約締結した「労働者供給事業」に行政が関与したことにはびっくりした。簡単に事業を説明すると、労働組合が加盟する職人を相手企業のニーズに応じた期間だけ派遣する仕組み。建設業務で認められていない労働者派遣と枠組みは同じだ。
C でも埼玉や千葉では、すでに先行して労働者供給事業が始まっているはずだけど。
B 埼玉や千葉は組合と協約締結者はハウスメーカー。まさに人手が足りない時にメーカー側の指示命令によって作業を進めることが合法的にできる。業界慣習として残っている「職人応援」は契約上、請負だからメーカー側に指示命令権はないという問題があった。
 一方、大田区の例を評価したのは、大田区という行政が関与して「地元工事」↓「地元企業受注」↓「地元職人が作業」↓「地元経済・産業が活性化」という好循環を最初から視野にこの枠組み実現にこぎ着けたからだ。
D 確かに着眼点はいいかもしれない。大田区在住の職人の仕事場が八王子市など23区以外で、23区以外の職人が逆に都心で作業をしているケースは多いだろうね。
B 組合からすると組合員の仕事は確保したい。一方、地元業界団体である大田区建設協会加盟企業60社にとっては、地元工事をせっかく受注しても、職人が確保できず都外から応援を頼めばコストも高くなる。地元の工事は地元企業と地元の職人で完結させればいいという発想はユニークだ。
E 同様の動きは大田区だけじゃない。既に大田区と同様、行政が関与して地元建設業界と地元職人組合双方のお見合いに動いているのが、横浜市だ。ただ横浜の動きは、地元大手ゼネコンが悩む担い手確保に対し、地元労働組合員が中途採用に応じて、担い手確保問題の一助になりうるかというのが元々の目的。その意味では、職人とは技能労働者であって、ゼネコンが求める施工管理を行う技術者いわゆる現場監督とはまったく異なるもので、難しいかもしれない。
F 横浜市内の地元大手ゼネコンでさえ若年技術者確保に四苦八苦しているのは分かる気がする。地方で名門と言われる工業高校建築系学科の先生に就職状況を聞いて驚いた。いまは多くの大手ゼネコンが協力会メンバーを連れてあいさつに来るけど、進路指導の先生は“一見(いちげん)さんお断り”の方針だという。
 なぜなら、複数の専門工事業のトップ企業だったり大手ゼネコンの系列企業などは、工高の先輩たちを以前から継続的に採用し、その先輩たちは新たな後輩らが上京して住む首都圏で仕事と生活の相談にも乗るという枠組みが固まっているのだという。
A もともと、労働力数(生産年齢人口)そのものは減少局面に突入している。そのなかで技術者、技能労働者ともに急に増やすということは難しいということか。

生産性と働き方 ツケの最後は自分払い

A これまで建設産業界にとって最大の課題でありながら、分けて語られがちだった「生産性」と「働き方」。この2つを関連させて解説してほしい。
B まず働き方改革だけど、今後もポイントとなるのは、罰則付きの時間外労働時間規制が建設業務に適用されるという点だ。これは法制度で義務づけられるし、中小企業だからという理由は通用しない。この影響が大きいからこそ、大手・準大手企業などは率先して働き方改革に取り組む一方で、労働生産性を向上させたり、現場収益アップにつながる技術革新に力を注いでいるのだと思う。
E 中小企業に肩入れをするわけではないけど、働き方改革と生産性向上の取り組みは、一部で中小企業を壊滅の方向に追い込む可能性もはらんでいると危ぐしている。例えば、労働時間短縮だけど、中小元請けにとっては現場作業時間が実質的に短くなる可能性がある。しかし自社技術者の業務はこれまでどおり。だから専門工事業と職人の待遇だけが良くなって、中小の元請けと技術者の環境は悪化の一途をたどる結果になってしまいかねない。
B その指摘は理解できない。そもそも元請けと下請けの契約は請負。さらに職人も時間で働く意識はない。仕事ができる職人ほど労働時間は短い。仕事のできる職人らには週休2日導入で目減りする1日分の賃金を5日分に振り分けて元請けが支給するという発想も生まれる。
E だからあえて中小元請けの現場の課題だとしている。専門工事業も社会保険加入促進の裏腹の関係にある職人の社員化が進んだことで、時間外の労働時間規制を受ける。そして屋外作業の場合、どこからが労働時間かの判断となる。建築工事なら現場集合だし、土木工事も現場事務所があるようなケースは同様だろう。
 しかし現場に事務所がない小規模工事で中小企業元請けが下請作業員を集めるのは、元請けの資材置き場などで、置き場集合と呼ばれる。そこから現場まで1時間以上かかるし、この移動時間も労働時間にカウントされる。
F 中小元請けの技術社員も大変だ。企業規模が小さいから、全国企業のように携帯端末でその場で業務指示をしたり図面を見ることもできないので、事務作業は現場作業終了後の夕方からになる。
 中小元請けにとって最大の障壁は発注者かもしれない。国土交通省や大規模発注を行う公共発注者、経済団体に加盟し歴史と信用がある民間発注者を取引先に持つ全国ゼネコンなどに対し、品確法(公共工事品質確保促進法)や担い手3法といっても首を傾げたり、国の設計変更ガイドラインや適正工期設定のガイドラインの存在さえも知らない職員が発注者になりうる市町村の工事を主力にする中小元請けはかなりのハンディを負っていると言わざるを得ない。
A 冒頭の話に戻すと、労働時間短縮の義務づけが生産性向上を必然とさせたが、企業規模や元請けと下請けではそれぞれの意味合いが違うということだね。
E 中小企業が大企業に比べハンディを負うのはある意味仕方がない。それにつけても中小企業にはハンディや産業構造転換へのうねりに対して首をすくめて波が去るのを待つのではなく、大手企業などと同様、波に乗って産業構造転換に乗り出してほしい。

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